フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.4:
エッ⁈和食と中華が混在した専門店! そのスムーズな食事の流れに、流石の食通もびっくり
 店が専門店化するにつれ、今日は伊料理を、明日は和食をと頭に描いて店選びするのが世の常になった。それが嫌なら、何でもございの居酒屋へと、食べ方とメニューは店を選ぶ段階で決まってしまうのだ。ところがその選択法に一石を投じる店が現れた。三田駅前に建つ「三福」がそれである。オーナーの福西文彦さん曰く、「三田ならではの専門店の融合」だそうで、繁華街ではまずありえない組合せだとか。和食と中華、しかもその専門職人が作る料理は、食べる側にいかなる改革をもたらしてくれるのか。自らの舌でその混在ぶりを味わうことにした。

ベッドタウンの街ならありえるこの複合

b 三田駅前にある「三福」が5月19日にリニューアルを果たした。和食を提供していた同店だが、いずれ新しい試みを持たせたいと、オーナーの福西文彦さんから聞いていた。「今度のコンセプトは?」とこちらも興味深げに尋ねると、「和食と中華の融合です」との回答。刺身も食せて、麻婆豆腐も味わえる、そんな店を造るのだと話していた。
「エッ!造りに、麻婆豆腐…⁈」。この二つをいかにしたらうまく出せるのか、数多くの店を取材し、何店舗かをプロデュースして来た私にすら全く未知のジャンルであった。だから5月末日に福西さんから「三福で食べませんか?」と声がかかるやいなや、興味津々で三田まで出かけた次第である。

d「三福」は、表を少しさわり、料理コンセプトを変更したが、店内の陣容は同じ。テーブル席がズラリと並び、玄関すぐそばに個室があり、奥にも個室がある。階段を少し上がった中二階的なおなじみの隠れ部屋もある。魚と和食をメインにしていた「三福」が新しい形になったのは、寺田料理長の腕をいかんなく発揮する場がほしかったから。寺田さんは、駅前にあった「悟空」で腕をふるっていたのだが、その店がなくなり、新たに活躍の場を探索している時に、福西さんがこのアイデアを閃いたのだ。「三福」には、和食の西川料理長もいたが、新たなコンセプトは、和中の融合なので、彼も今まで通り腕をふるい、ダブル料理長の路線を貫くスタイルになった。

c私が頭に描きにくかった新コンセプトも、入店してメニューを見れば、一目瞭然で、さらに注文して食べていくと納得がいく。要は活きのいい魚があってそれを造りとして出しており、それら和のメニュー以外にも中華があるというラインナップ。メニューの並びは、居酒屋的要素のうまいもののオンパレードなのだが、本格的な和の職人と中華の職人がいるので料理は専門店レベルというわけである。

e店長の濵名大樹さんによると、「お客様は初めは造り盛りなどの和から入って、次第に中華メニューへと移行していきます。来店する側の方がむしろ自然にこのコンセプトを受け入れているようで、和食と中華が並んでいても不思議に思う人はいませんね」との話であった。

f福西さんは、街による飲食店の使い方を説明する。「和と中華という、全く違うジャンルの料理を複合させてしまうと、居酒屋的スタイルに陥ってしまうか、失敗するかのどちらかでしょう。三宮などの繁華な地で店がいっぱいある場合では到底考えられないかもしれませんが、ここは三田なので専門店は少なく、和食も中華もいっしょに味わいたい向きはいるんですよ」。和食だけではどうしても腹持ちがよくないとか、お腹いっぱいになりにくい_、そんな人には中華があることで満腹感になり、満足感に浸れるのだろう。なので和と中華が一つの店舗で融合したとて、不思議には映らないのである。梅田や難波、三宮などの繁華街では中華で酒を飲むスタイルが受け入れられる。ところが地方都市やベッドタウンではなぜかそうはいかず、中華といえば“めしを喰う”目的で訪れる。だからその手の街では、中華料理は食事処の域を出て来ない。これは三田に限ったことではなく、明石でも加古川でも三木でも同じ。いや神戸市内にあっても三宮や元町でなければ、どの各駅停車の駅前でも同じことがいえる。つまり、梅田や三宮といった繁華街が特殊なのだ。その点を福西さんはうまく突き、新たなコンセプトをこの街に植えつけようとしているのだろう。

自然な流れで、和から中華へ

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「三福」のメニューを覗いてみると、「旬選5種盛」「特選7種盛」(ともに造り盛り合わせ)があり、これが一つの売りでもある。濵名店長は「淡路島由良漁港や神戸中央卸売市場などから新鮮な魚介類が入り、これを生け簀におくことで鮮度抜群の造りが提供できます」と話している。この日は活け鮑や天然の活け牡蠣があって、当然レベルの高い品だった。「三福」では、まずこの造り盛り合わせを目玉とし、次に和の一品へ進むよう促している。そして淡い味の和食に飽きたら中華メニューへと進む。寺田料理長が作る中華は、「油淋鶏」「角煮酢豚」「四川風麻婆豆腐」「ふわふわかに玉~オイスターあんかけ~」「豚肉の豆鼓蒸し」「三福風エビマヨ」「四川風エビチリ」など。どれも中華のシェフが作る本格的なものばかりである。中華で腹が満たされたなら、締めを「おまかせにぎり寿司」や「あったかにゅうめん」と和食に戻す食べ方もいいだろう。アラカルトが邪魔くさければ、「悲田」(4500円)、「敬田」(6500円)、「恩田」(8500円)「三福田」(12000円~)の4つのコースがあるのでそれを注文して店側の構成に任せるのも一つの手だ。

i「三福」は、リニューアルしてまだ日が浅いが、それでも間口が広がったことで客層も幅広くなっていると聞く。「中華が加わることで、より使いやすくなったかもしれません」とは中谷世志樹マネージャーの弁である。

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かくいう私は、福西さんといっしょに造りの「特選7種盛」(2480円)を平らげ、その後に「あさりの酒蒸し」(680円)を食べ、中華へと移行して「油淋鶏」(620円)と「四川風麻婆豆腐」(850円)を食べた。そして仕上げにと「にぎり盛り合わせ8貫」(1480円)を賞味した。それでもまだ酒が残っており、ちびちび飲っていたので追加に「香港チャーシュー」(680円)を注文した次第である。考えれば、和→中華→和→中華と味わっており、まさにごちゃまぜ感あり。なのに満足とは、福西さんのコンセプトにはまったことになる。
一応、福西さんが言うには、「新三福は、魚と中華と肉が食せる店」。こう聞けば、何でもありだが、三田で出せる旨いもんをうまく混合させたともいえる。ちなみにここでいう肉とは三田牛のこと。「福助グループ」は、三田にあって三田牛を食せる店が少ないと嘆き、自店でそれを提供している。「三福」でもそのこだわりよろしく、プレミアム三田牛の「リブロース炙り焼き」(一枚40g1280円)や「牛トロ炙りにぎり」(一貫580円)を供しているのだ。またそれらに加えて「しゃぶしゃぶコース」(3100円)や「すき焼きコース」(国産牛使用5800円)もある。「すき焼きは牛肉バージョンと、丹波地鶏バージョンがあるんですが、ともに価格が5800円なのに、その両方を合わせた相盛りは5300円なんです。牛肉ばかりだとしつこくなるのでそこに地鶏を入れると、あっさり食せて旨いですよ」と福西さんは言う。通常なら相盛りの方が値が上になるはずだが、そうならない所が「三福」らしさ。何から何まで意表をついてくる。

<データ>

三福

住 所 兵庫県三田市駅前町8-39-101
T E L 079-559-0124
営業時間 11:30~14:00 17:30~23:00
休 み 火曜日
メニュー

旬鮮5種盛   1980円
あさり酒蒸し   680円
おまかせにぎり寿司 5貫940円
フカヒレあんの具だくさん寄せ玉子   1200円
手造り小籠包(3個)           650円
三福風エビマヨ             830円
四川風エビチリ             850円
白身魚の中華風お造り          880円
牛オイスター炒め            860円

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

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