フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.8:
秋は新酒の季節。この際、ノーベル賞公式行事で供される「福寿」を飲みながら、日本酒について学ぶのもいいのではないだろうか。
秋になると、日本酒の新酒が店頭を賑わし始める。「ふく助」といえば、オリジナルの「田助」がおなじみだが、この酒はもう少し待たねば新酒が登場しないらしい。そこでいち早く今年の酒をと、灘から今話題の「福寿」を持って来た。江戸時代の宝暦元年から造り始めた同蔵は、ピュアな日本酒を提供し続けていることで定評がある。11月15日にはこの蔵元から酒ソムリエを招き、試飲しながら日本酒について学ぶ食事会を「ふく助」で行うことになった。今回はこのお知らせを兼ねて「ふく助」や「三福」で飲める「福寿」について言及したい。

ノーベル賞公式行事で出された酒を三田で

酒心館外観10月1日は日本酒の日である。なぜこの日かというと、昭和39年まで酒造年度は10月1日からと定められており、10月から新米を収穫して日本酒造りを始めていたのだ。なのでこの日が日本酒の日。それともう一つ、酒の字には「酉」が使われており、酉は十二支の中で10番目の動物だから10月最初の日をそれと決めたとの説もある。何はともあれ、10月からは新酒が巷を賑わすと言ってもおかしくはあるまい。

g「ふく助グループ」といえば、オリジナルの「田助」だが、こちらは三田の山田錦の収穫を待ち、ハクレイ酒造で仕込んでもらわなければならないので新酒はもう少し先になる。ならば、それまでは他社の新酒を堪能しておきたい。最近、福西文彦オーナーが灘の酒蔵と知己を得た。何を隠そう、私が「神戸酒心館」との仲を取り持ったわけだが、福西社長やマネージャーの中谷世志樹さんも蔵見学に行って以来「福寿」を気に入り、早速、「ふく助」や「三福」、最近お目見得した「にしか和」などで置くようになった。「神戸酒心館」は、「福寿」のブランドで知られる蔵。スウェーデンで開かれるノーベル賞の公式行事で「福寿純米吟醸」が供されるとの報道を耳にした人も少なくないだろう。この蔵は、宝暦元年(1751年)に創業というから、江戸期の将軍・徳川吉宗のすぐ後の時代にできたことになる。現在の安福武之助社長で丁度13代目。大手メーカーが林立する灘にあっては中堅どころにあたり、真摯に酒造りを行っていることで知られている。同社のホームページを開くと、「私たちは効率やスピードを追わず、時代におもねることのない丁寧な酒造りを続け…」と書かれている。話題の「福寿純米吟醸」がいくら売れようと、今以上の生産量を持たないと言っており、その頑なな姿勢が余計に安心感を与えてくれるのだ。量を追うと、酒質が荒れる恐れがある。それをこの蔵の経営者はよく知っているのだと思われる。

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d_2ところで昨今は日本酒がちょっとしたブームになっているのをご存知だろうか。ブームといってもバブル期前後に起きた地酒ブームとは程遠いうねりなのだが、「獺祭」や「新政」といった地方ブランドが今回のブームを引っぱっており、「福寿」もまた灘ではこだわりの酒としてその一翼を担っている。「福寿」は古くからファンが根付いており左党には人気なのだが、やはり一般的に広め、メジャーになったのはノーベル賞晩餐会で使用されたことが大きい。近年、日本人の頭脳は際立って目立っており、ノーベル賞でも色んな分野でその才が注目されている。スウェーデンのノーベル賞主催者側でもそのことはわかっているようで、ある時、「日本人が受賞したら日本酒を出すべきなのでは…」と声が挙がった。ところが欧州の人は日本酒に疎い。そこで欧州の日本酒通に聞いたところ「福寿の純米吟醸酒がいいだろう」との回答を得た。日本人ではない専門家が推薦したことで、ノーベル賞の公式行事の席で「福寿純米吟醸酒」が供されることになったそうだ。同酒は熟した桜桃のような豊かな香りが特徴。さらりと飲め、フレッシュな果物のような味わいがある。米の旨味もしっかり味わえ、生クリームやカッテージチーズとも好相性なので欧州の人には受け入れやすかったのだと思われる。一時期、ノーベル賞晩餐会に出た酒と騒がれ、造ってもすぐ品切れになる状態が見られた。だからブルーのボトルを棚で見たなら、買っておかねばとの消費行動に駆られたようだ。

IWC審査員を務めた湊本さんを招き、食事会を敢行

e_2日本酒は、我が国の食文化の一つだというのに我々は日本酒のことを詳しく知らない。本醸造と純米酒、吟醸酒の違いはわかっていてもその造り方をと問われればあやふやだし、生酛や山廃に至っては何のことか説明もつかない。せっかくブームが来ているのだから、ある程度の知識をふまえた上で飲りたいと思う。そこで南ヶ丘にある「宴 ふく助」では灘より蔵元を招いて日本酒セミナーを実施することにした。蔵元とは、「神戸酒心館」である。この蔵元で酒ソムリエの肩書を持つ湊本雅和さんをスピーカーとして招いて11月15日(水)の夜に「日本酒と落ち鱧の夕べ」(仮)と題したセミナー付きの食事会を催すことにした。
湊本さんは以前、ソムリエの先生をしていたほどの人で、ワインをある程度勉強したので次は日本酒とばかりに「神戸酒心館」へやって来た。日本酒のコンテストというと世界的なのにはIWC(インターナショナルワインチャレンジ)がある。ここに日本酒部門ができて10年になることから昨年、兵庫県がその大会を灘に誘致した。その時の審査員に選ばれたのが湊本さんだったのだ。「IWCの審査レベルの高さは世界的にも有名で、世界で一目置かれる人ばかりが集っています。私も日本大会に参加できたことを誇りに思っています」と湊本さんは語っている。彼は昨年の日本大会のみならず、今年もロンドンから声がかかっている。そんなレベルの人が「宴 ふく助」でわかりやすく日本酒について話してくれるのだ。

f_2当日はPM7:00からの約一時間で日本酒セミナーを実施。「神戸酒心館」から4種の酒を持って来てもらい、試飲しながら湊本さんの解説を聞く運びになっている。持参してもらう酒の中には、灘の蔵でしか飲めない生搾り原酒も入ることになっているので期待したい。日本酒セミナーにて飲みながら学んだ後は、あとの一時間をかけて淡路島から直送された鱧をしゃぶしゃぶにて味わうと考えている。これまた由良漁協より「海幸丸水産」の橋本一彦さんを招き、トレトレの鱧に舌鼓を打ってもらおうとの主旨。この日(11月15日)は、旨い酒(「福寿」)と旨い魚(由良漁港直送の鱧)が味わえることになっている。同食事会は、福西さんと中谷マネージャーが温めて来た企画で、これまでとは一風異なる食事会をと蔵元や漁港と交渉して来た。旨いものを味わいながら、日本酒通になれればこの上ない充実感が得られるはずだ。

※今回このコラムで記した"日本酒と落ち鱧の夕べ"については、詳細を「宴 ふく助」で聞いて申し込んでください。

<データ>

宴 ふく助

住 所 兵庫県三田市南が丘1-50-3
T E L 079-563-1660
営業時間 昼11:30~15:00 (L.O.14:00) 夜17:00~22:30 (L.O.21:30)
休 み 月曜日 月曜日が祝日の場合、月曜日は営業。次の日の火曜日も営業します。
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プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

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