フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.10:
清酒「福寿」を飲んで、旬の落ち鱧を食べる_、そんな食事会が高く評された。
以前このコラムで述べた神戸酒心館の酒ソムリエを招いての食事会が大成功した。当日は湊本雅和さんによる酒の話があったり、淡路島・由良漁港から「海幸丸水産」の橋本一彦さんが鱧を持って来たりと、なかなか充実した内容で、訪れた方々もなかなかいい時間を過ごしたのではないだろうか。「こんな催しなら年に何回もやってほしい」の声はお世辞ではなく、むしろお客様の本音だろう。今回は、昨年の11月15日夜に「ふく助」で実施した第一回"日本酒と落ち鱧の夕べ"のレビューを書くことにする。当日来られなかった人もこのコラムを読んで、本企画の内容に触れてほしい。福西社長の言葉を借りれば「二回目もある」そうだから…。

文化的に価値のある食事会にしたい

第8回目の三田食紀行で報じた「日本酒と落ち鱧の夕べ」のレポートを書こう。同催しは、蔵元と生産者をゲストに迎えた食事会。この手のものは、最近ヒットしており、殊に東京はこのような文化色があるイベントがウケる傾向にある。私が福助グループオーナー・福西文彦さんに「企画してみたら?」と安易に言ったのは、神戸酒心館の酒ソムリエ・湊本雅和さんの話があまりに素晴らしいからである。酒の説明もさることながら自身のソムリエ経験と照らし合わせたワインと日本酒の比較論は、知識欲の高い人達を話に引き込んだ感があった。私が座長を務める食ビ研(関西食ビジネス研究会)では、セミナーだけの内容だったが、この時、料理や酒を前にして聞くと、さぞ面白かろうと思った次第である。そこで「ふく助」の二階の広間を使って実施してはどうだろうと福西さんに薦めたのだ。

DSCF8965繋ぎはつけたものの、私がそこまで企画に深く関わったかといえばそうではなく、内容は福助グループの中谷マネージャーや「ふく助」の村川店長、中野料理長が直接湊本さんと会って決めてくれた。この日、神戸酒心館で用意してくれたのは、「福寿純米吟醸」「御影郷」「寒造り」「しぼりたて」そして「壱」である。このうち「壱」だけは、神戸酒心館の清酒銘柄・福寿ブランドを冠していない。これは酒心館の会に加盟している酒屋でしか扱うことができないからだ。同酒のコンセプトは最上の食中酒。料理といっしょにたしなむことで一層豊かな味わいが発揮できると造った少量仕込みのものである。これが2016年に灘で開かれた世界的な酒の大会・IWCで金賞を獲得して一躍注目を浴びたのだ。ちなみにIWCとはインターナショナルワインチャレンジの略称で、毎年ロンドンで開かれているワインの大会。ここに11年前に日本酒部門ができた。10周年を迎えた2016年には、記念すべき年にぜひ日本一の酒どころ・灘でと兵庫県が大会を誘致した。その時に神戸酒心館の「壱」と「寒造り」が金賞に輝いている。

一方、落ち鱧の方は、これまた三田食紀行で書いた淡路島・由良漁港の橋本一彦さんから直送してもらい、「ふく助」の厨房で調理した。当然、橋を渡って持って来てもらったのだから橋本さんもゲストとして同座してもらっている。橋本さんの鱧を使って作った献立は、前菜が鱧煮凝凍り真砂子餡掛け、鱧ちりめん、黒枝豆、柿チーズ、古木牛蒡、山芋このわた、うずら卵、三つ葉で「味くらべ前菜吹き寄せ盛り」と題されている。続く向付は鱧湯引き焼霜造りで、梅肉と酢味噌で味わう。箸休めは鱧寿司、油物が鱧と松茸の天婦羅。そしてメインの鍋は鱧しゃぶであった。これに甘味として酒粕ティラミスと挽き立てコーヒーが付いている。
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 二時間の予定が一時間半ぐらいもオーバー

DSCF8974食事会自体は19時に始まった。福西社長が挨拶した後に私が出て鱧の話をさせてもらった。今回、11月に鱧を食材に選んだのは、旬を迎えているからである。一般的に鱧は夏の魚といわれ、誰もが祇園祭や天神祭ごろが旬だと思っている。ところがそれは江戸期の京の料理人達が作った話でまっ赤な嘘。本当は冬眠する前にせっせと餌を食す晩秋あたりが一番旨いのだ。そんな話を混じえながら落ち鱧と呼ばれる素材の蘊蓄を少しだけ語らせてもらった。
私に続いてこの日のメインゲスト・湊本さんが酒の話に入る。本当は一時間かけて日本酒の基礎を学ぶセミナーでもと思っていたが、流石にお預け状態では辛かろうと、その日の酒の説明をした後に、少しだけ酒づくりについて述べ、後は食べながら飲みながら聞いてもらうスタイルにした。湊本さんの偉い所は、その後に自分は食べずに各テーブルを回ってお客様と酒談義をかわしていた点。色んな人と日本酒について話したので、全テーブルをぐるっと回って来る間に二時間は要していた。まさに頭の下がる思いだ。

DSCF8984料理は中野料理長が中心となって考えた鱧づくし。竹の上に載せた鱧を箸でつまみ、鍋の中でしゃぶしゃぶして、味わう。これがこの日のメインイベントなのだが、数人が同じテーブルで鍋をつついても過不足がないように、一人分を竹の上に並べて供していた点がよかった。お客様は淡路島の南で揚がった鱧を同じだけ堪能できたはずである。

DSCF8978本催しは概ね好評で、「次回はいつやるのか」との声が多く寄せられたそうだ。19時から二時間の予定で始めた会だったが、お客様がなかなか帰らず三時間たっても終わるそぶりを見せなかった。このことを考えても好評だったのがわかる。福西さんによれば、これまで宴会形式は行っても同じ目的で各顧客が呉越同舟する機会はなかったらしい。日本酒と漁業の専門家を招き、文化的テーマを兼ねて旨いものを味わうことがこれほど高く評されるとはなかなか思っていなかったろう。福西さん曰く、「素材や酒を選んで2018年度は定期的に行っていきたい」らしい。季節に合わせた旨いものを提供しながらちょっとした蘊蓄を学んでもらう_、こんな企画が今後も続くことを多くの人達が期待しているようだ。

<データ>

宴 ふく助

住 所 三田市南が丘1-50-3
T E L 079-563-1660
営業時間 11:30~15:00 17:00~22:00
休 み 月曜日(祝日の場合は営業)
メニュー

お造り盛り合わせ(3点盛り)  1280円
茄子ギョーザ         550円
豪快天ぷら盛り        1880円
ゆず香る鯛にゅうめん     880円

※上記メニューは通常通りのもの。コラムにある「日本酒と落ち鱧の夕べ」は、内容に記した通り特別な会席仕立てになっている。

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

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