フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.11:
今度は落語会付きボタン鍋の会!プロの噺家を招いて日本酒片手に猪肉を食べるのだ
 11月に好評を博した「ふく助」のテーマ別食事会。オーナーの福西文彦さんが「二回目もある」と言った通り、2月28日にボタン鍋の食事会が企画された。今回は日本酒を福西さんがチョイスするそうだが、それだけでは終わらない。何とプロの噺家を招いて落語会付き食事会にしてしまおうと考えている。仮りに「池田の猪買い」をやるとすれば(まだ未定だが…)、まさに立体的に落語が味わえることになる。19時から約一時間弱噺を聴いてから場所を移してボタン鍋宴会を。こんな楽しい企画なら厳冬も吹っ飛んでしまいそうだ。興味のある方は、まず「ふく助」で予約をば…。

「ふく助」二回目の食事会は落語付き

前回のコラムで11月に催した「日本酒と落ち鱧の夕べ」の話を記したが、その中で福助グループ・オーナーの福西文彦さんが「二回目も必ずする」といった言葉通りに現実のものになった。先日、「ふく助」を訪ねた折りに同店の村川店長から継続してやりたい旨を聞いた。福西さんも「日本酒をテーマにゲストを招いて定例化したい」と話しており、では早速、第二弾を企画してみようと話がまとまったのだ。

DSCF6547寒の時季というと、旨い素材は巷に溢れている。蟹は関西人の好物だし、フグも同じ。クエやアンコウ、それに各種鍋物と、グルメが好むテーマは沢山ある。前回が海のものだったので、次回は山の産物でどうだろうと、当方も福西さんに提案しておいた。そこで決まったのがボタン鍋を食べること。「ふく助」は、普段から篠山の猟師を通じていい猪肉を仕入れており、同店の中野料理長もその調理技術には長けている。しかも、中野料理長が知己を得ている西村大二郎さんは、山が好きで篠山でジビエ専門店「山大」を営んでいるとの話。ならば、そこからいい猪肉を仕入れて「ふく助」特製の味噌スープでボタン鍋を提供するのが面白かろう話がまとまった。
副タイトルに“日本酒を味わう会”としているので今回は篠山の鳳鳴酒造の日本酒が味わえる。同蔵は寛政9年(1797年)創業で、「鳳鳴」なる清酒を出している。今回はその蔵人が本企画のために日本酒をチョイス。2月23日に新発表される「たちくわ今朝しぼり」も飲めるというから楽しみだ。日本酒と鍋という好相性のものが楽しめる会になるだろう。

さて、変わったことを企画したい「ふく助」はというと、「一般的なボタン鍋の会では面白くない」と前々から温めていたプランを具現化することにした。それは落語「池田の猪買い」の噺を聴いた後に、実際のボタン鍋を味わうというものだ。そこで上方落語の噺家さんへそのプランを投げてみた。すると、快く引き受けてくれるというのだ。

IMG_0078話を投げた相手は桂三幸さん。あの桂三枝(現6代目桂文枝)師匠の弟子で、何と国立大の工学部卒という変わり種噺家。これまでの私との友人関係から「一席やりましょう」と言ってくれたものの、実は桂三幸さんの持ちネタに「池田の猪買い」はなかった。「ならば、そのネタを持っている噺家を呼びましょう」と桂三幸さん。なので贅沢にも二人の噺家を招いての落語会付き食事会となったのである。現在、もう一人の噺家は桂三幸さんが当たってくれており、この原稿を書いている時点ではまだ決まっていない。加えて桂三幸さんも食べ物が出て来る噺をしようと考えてくれており、師匠の創作落語「賑やか寿司」がその候補に挙がっている(二席のネタはまだ未定と現時点では記しておこう)。何はともあれ、2月28日(水)の食事会では、彼らが披露する落語に、ボタン鍋が味わえるユニークな内容になると思われる。

篠山でボタン鍋が有名な理由

ところでフードジャーナリストとしては、その予告だけでコラムを締めるつもりもなく、少しだけ猪肉とボタン鍋についてふれておくことにする。今でこそボタン鍋は冬の味覚の代表だが、その歴史は意外にも浅く、明治になるまでは登場して来ない。日本人と猪肉の関係は古く、縄文時代から狩りで猪を獲りその肉を喰ってはいた。江戸期には獣肉禁忌の時代もあったのだが、篠山の人達は猪肉を山くじらと称してお上に偽って食べていたそうだ。明治になって篠山に陸軍歩兵第70連隊が駐屯。彼らは射撃訓練で猪を撃っていたのである。撃って捕らえた猪の肉を味噌汁に入れて食べたのがボタン鍋のルーツ。この話をヒントに篠山の旅館が将校向けの料理として出し始めたのがボタン鍋なのだ。

ボタン鍋は味噌味で、そうする意味は味噌が獣臭を消してくれるのだと教えられて来た。しかし、山深い地で食べた猪肉は臭くはなく、焼いても旨いし、しゃぶしゃぶにだってできていた。要は猟の仕方次第で、鉄砲の弾の入り所が悪かったり、もがき苦しんだりすると臭くなってしまうようだ。きちんと猟をし、処理が上手ければ肉は決して臭くはならない。今回は「ふく助」の中野料理長がその伝手を採って「良質の猪肉を届けてもらえるのだ」と話している。ならば期待は高まるばかり。その猪肉と三田の野菜がうまくハーモニーを奏でて冷え切った身体がぽかぽかするような鍋になると思われる。

「ふく助」では2月28日(水)19:00から落語を聴いてからボタン鍋を味わう食事会を行うべく、現在店などで広報している最中。桂三幸さんらプロの噺家も加わったユニークな食事会が前回のように満席になることを願っている。
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<データ>

宴 ふく助

住 所 三田市南が丘1-50-3
T E L 079-563-1660
営業時間 11:30~15:00 17:00~22:00
休 み 月曜日(祝日の場合は営業)
メニュー

※落語付き食事会は2月28日(水)19:00~、詳しくは「ふく助」に問い合わせを。

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

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