フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.12:
噺家二人まで参加した「ふく助」のフレンドリー的宴会の醍醐味
前回に告知した落語付きボタン鍋食事会が春一番が吹く中、三田の「ふく助」で開かれた。第一部は桂三幸さん、桂小留(チロル)さんによる落語会で、第二部はそのネタをもじった食事会である。同食事会の素晴らしい点は、落語と宴会のコラボなる企画だけではなく、そこまで盛り上がるかというぐらい盛況な宴にある。蔵元自慢の日本酒と猟師が獲って来た猪肉も旨いのだが、まさに「宴とは盛り上がるべきもの」を地で行く雰囲気を見せつけている。あまりの盛況ぶりに噺家さんまでその垣根を取っ払い、一献やるようになってしまった。今回のコラムは、そのムードを少しでも伝えたくて2月28日のレビューを書いてみた。

酒と肴、それに落語が付いたユニーク食事会

NHK朝ドラ「わろてんか」が好調のようだ。このドラマは吉本興業の吉本せいをモデルにしたもので、彼女と想像させる北村てんを葵わかなが演じている。テーマがテーマだけに実際いた芸人を彷彿させる人物も多く出ており、例えば横山エンタツ・花菱あちゃこをキース・あさり、ミスワカナ・一郎をミスリリコ&シローとしており、中盤には桂春団治を思わせる月の井団吾なんて噺家も出て来ていた。

DSCN0586冒頭からなぜこんな話を書くかというと、2月28日に「宴 ふく助」で落語会付きボタン鍋食事会が開かれたからだ。前回のこのコーナーでもプレビュー的に書いて告知しているからなぜこんな企画が成されたかは読んでもらえばわかるだろう。「ふく助」が日本酒を楽しむ会として蔵人を呼び、素材提供者を呼んで行う宴会がこれで二回目。今回は篠山の「鳳鳴酒造」とジビエ専門店「山大」がゲストとして招かれていた。そこに第一部の出演者である噺家の桂三幸さんと桂小留さんが加わったわけだ。

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当日提供されたメニューは、前菜にタチウオのうの花和えと豆乳わさび豆腐、次に賑やか寿司、メインのボタン鍋、デザートとして黒豆のレアチーズケーキという順である。「ふく助」は冬場になるとボタン鍋をメニュー化しているので中野料理長も手慣れたもの。味噌を強くせずに鰹を勝たせただしも宴会仕様で中野料理長曰く「煮込みすぎを見越して味噌を多めにしなかった」らしい。「山大」の西村大二郎さんがこの日のために持って来た猪の部位も色々。特徴を噛みしめながら部位の違いを感じてほしいとの話だった。篠山の蔵元「鳳鳴酒造」からは5種の日本酒が_。純米吟醸、本醸造、しぼりたての「鳳鳴」と2月23日に発売された「たれくち今朝しぼり」、それと「鳳鳴」と記した清酒の5つだ。同食事会は副題に"日本酒を味わう会"と謳っているので、これらの酒と山の幸が出合ったことになる。「山大」も「鳳鳴酒造」もともに篠山なので、食事会冒頭で流されたデカンショ節もわからぬでもない。

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前回もそうだが、この2月28日も19:00から落語会、20:00から(実際は20:30ぐらいにスタートしたが…)食事会の予定で2時間半ぐらいを予定していたが、22:00をまわっても終わる気配はなく(それだけ盛況だということ)、桂三幸さんと桂小留さんが終宴をし、あわてて飛び乗ったのは大阪行きのJR最終便であった。「ふく助」の店長・村川さんは「落語もさることながら噺家さんが宴席に入ってくれたのがかなり評判となっていました」と話している。桂三幸さんなどは各テーブルを回ってくれ、いっしょに写真を撮影したりと和やかムードを演出してくれたために「直接話ができて嬉しかった」「芸人なのにフレンドリーでびっくりした」との声も寄せられていたようだ。

なぜここまでフレンドリーに盛り上がるのだろう

DSCN0576さて、本食事会のミソは、料理と落語の噺を合わせた所にある。桂小留さんが演じた「池田の猪買い」は、新鮮な猪肉を求めて池田まで行くという噺。今回は池田ならぬ篠山産の鮮度のいい猪肉が出て来たのだから噺と合ったといえよう。桂三幸さんの「賑やか寿司」は、師匠・桂文枝(桂三枝)さんの創作で、寿司屋での出来事をネタにしたもの。この演目に合わせて中野料理長が想像する賑やか寿司が具現化されていた。桂三幸さんは、愛媛大工学部卒の学歴を有す。だからであろう機械ものが大好きでF1やインディの観戦に興じたり、自身でもカートレースをやっていたりする。彼が師匠譲りの創作落語を書きながら披露したスマホを使ったネタは経歴から生まれた三幸さんならでは噺で実に面白く、かなりの爆笑を誘っていた。本来は「賑わい寿司」「池田の猪買い」の二席となる予定だったが、当日桂三幸さんが「三席やります!」と言ってくれ、スマホ落語(創作落語)を加えたのは彼のサービス精神旺盛さ故。その分、第二部開演が遅れたが、参加者にはむしろよかったのではなかろうか。

DSCN0569近年、飲食店ではあの手この手で顧客を呼ぼうとしている。その代表的なのがテーマ別の食事会。だが、大半の所はテーマに合わせて料理を出すだけで宴会イメージは少ない。前回にせよ今回にせよ、私が「ふく助」のテーマ別食事会に参加して思うのは、まさに三田の宴席が「ふく助」の二階で繰り広げられていることで、毎回盛況ぶりを示している。これが一つの団体なら驚かないが、大半の人が二人連れで来ており、中には一人客もいるらしい。これだけ見知らぬ人が集うわりには、いつもワイワイと知らぬ者同士が盛り上がっている。「果たして今日中に終わるのだろうか」とは、遠方より来ている私の印象で、現に噺家達は終電になってしまった。

食事とは、素材や味付けもさることながら誰とどんな席で味わうのかが問題で、だから店舗での飲食代が多くてもそれはエンゲル係数に含まれず、交際費として処理されている。ということから考えても「ふく助」は、よき社交の場となっている。福助グループのオーナー・福西文彦さんに聞くと、「4月は伝助穴子のしゃぶしゃぶを予定している」らしい。このコラムでも書いた由良漁港の橋本一彦さんが、とっておきの大きな穴子を持ち込むのだと思われる。その企画今から待ち遠しい。

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<データ>

宴 ふく助

住 所 三田市南が丘1-50-3
T E L 079-563-1660
営業時間 11:30~15:00 17:00~22:00
休 み 月曜日(祝日の場合は営業)
メニュー

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

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