フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.23:
地元の名素材・三田ポークを厚切りとんかつで_。その好評ぶりが三田市内で話題に。
JR新三田駅近くに「旨い豚 かつ福」なるとんかつ屋が昨年の11月からできている。この店は、ありそうでなかった三田ポーク専門のとんかつ店。三田の名素材なのになぜかそれを専門に食す店がなかったことから福助グループが企画・運営したのだ。三田ポークは、寒暖差の激しい母子(もうし)地区で飼われている豚を指し、肉質が柔らかく脂に甘みがあるのが特徴。「かつ福」では、その肉を用い、注文を聞いてからパン粉をつけて揚げていく。「厚切り具合がいい」との評判もあって11月にオープンするや、すぐにその名前は三田市内で広まった。今回は、そんな評判店の「厚切りロースとんかつ」を味わってみた。雨後の筍のように巷にできているとんかつ屋とは、いかに違うかをこの文章から読み取ってほしい。

三田の名素材をおしげもなく使う

DSCF0260最近、とんかつの需要が高まっているのか、色んな所にその専門店がお目見得している。安価な店とこだわりの店に分かれて来たのがトレンドのようで、定食でも千円以上の値をつけていてもおかしくはなく、それだけ素材にこだわっていることが窺えるのだ。JR新三田駅近くにオープンした「旨い豚 かつ福」は、三田ポークの専門店。三田市内で産する銘柄豚・三田ポークをおしげもなく用いて「ロースとんかつ定食」(1400円)などを提供している。

DSCF0234三田には、三田牛なるブランド食材があるが、豚肉もいいものが獲れる。丸永が三田・母子(もうし)地区で飼っている豚が三田ポークと呼ばれるもの。生後まもない子豚を島根県江津で70日程育て、その後に三田・母子へ持って来るそうだ。母子には、甲子園球場13個分という広い敷地の牧場があってここで約4カ月肥育させる。豚舎の床にはおがくずを敷き、排泄物はおがくずに吸収され、微生物によって分解・醗酵されるために汚水が一切出ないようだ。一頭当たりの空間も広くとってあるので豚は、いい環境内でのびのび育つという。丸永では、飼育法や給餌法、農場環境にこだわって豚を飼育しているので、いい肉質のものができるというわけだ。「かつ福」を運営する福助グループでは、三田ポークを産する牧場の丸永と以前からルートがあったので三田ポークのみを使用したとんかつ屋をオープンすることができた。

DSCF0237国道176号線沿いに2019年11月10日にオープンしたという「かつ福」は、わかりやすい場所にあって新三田駅から歩いても行けるのでオープン以来、連日盛況ぶりを見せている。オーナーの福西文彦さんは、「三田にいい豚肉があるのにも関わらず、市内に三田ポークを出す専門店がありませんでした。市内に住む人達にその良さを知らせたくて、『かつ福』を企画しました」と店を開いた理由を述べていた。三田には名物食材として三田牛があるが、こちらは"超"がつくほどの高級品でなかなか味わえない。その点、三田ポークはグレードが高いとはいえ、豚肉なので手頃な価格で提供できるとあって、三田の産物を訴求するのにもいいきっかけになったと思う。

DSCF0245「かつ福」での一番のオススメは、「ロースとんかつ定食」(1400円)。これは150gという厚切りのロースを揚げたもので、かなりボリュームがある。一般的な店で厚切りと謳っている所でも120gぐらいしか出ていないことからもそのボリューム感がわかってもらえるだろう。「とんかつは厚くないと美味しくない」とは福西さんのとんかつ論。そこで厚切りをスタンダードにして出したいと考えるようだ。ソースは、自家製で基本がデミグラスだが、とんかつソースもあるそうで、注文時に聞くシステムを採っている。厚切りは食べたいけれど、150gまではという向きは、ミニを選ぶべき。「ロースとんかつミニ」(1000円)は、100gなれど他店では決してミニとは呼ばないサイズ。福西さんに聞くと、「女性にはミニが好評」のよう。

この厚切りロースとんかつと同様に人気があるのが「三田ポーク食べ比べ定食」(1350円)だ。こちらはロース、カルビ、赤身が載っている。部位が異なる三種のとんかつを食べ比べできるとあってグルメにはことさら評判がいいらしい。「三田ポークは、脂に甘みがあるのが特徴。脂部分の透明度が高く、とんかつにしても白くなりません。生から揚げているから豚肉の味がきちんと伝わります。脂がしつこくないから胸焼けもしません」と福助グループの中谷世志樹マネージャーが説明していた。とんかつというと、多くは冷凍素材やチルド素材を使っている。冷凍品は、性質上、揚げるとカスカスになる。だが、ここでは丸永の協力のもと仕入れを行っているから生の肉を使用できるのだ。ただでさえ肉質がいいのに、供給状態がよければ、さらに差別化を図ることが可能に。こういった点からも福助グループは、「かつ福」運営のメリットを打ち出せているようだ。

店内提供だけではなく、持ち帰り需要を高めたい

DSCF0256「かつ福」では、肉汁を閉じ込めて作った「肉汁ハンバーグ」や大きな海老を揚げた「海老フライ」(3本1280円)もあり、加えて一口とんかつ(2個)と唐揚げ、海老フライを各々付けたメニューもある。ちなみに「Aセット」は、一口とんかつと海老フライが皿に載っており価格は1280円になっている。「Bセット」は唐揚げが付いて1100円なのだ。色んなメニューがある中で私が面白いと感じたのは、「かつ丼」である。元来、かつ丼のかつ部分はだしとともに煮込んで作る。これだと揚げ物のパリッとした感じはなくなってしまうと常々私はその作り方に疑問を抱いていた。それが「かつ福」では、とんかつを煮ないでかつ丼を作っている。揚げたてをご飯の上に載せて玉子とだしをかけて供するのだ。「一般店は、あらかじめ揚げおきしているものを使用し、それを煮込むのです。うちは注文を聞いてから『かつ丼』のかつも揚げるので煮込む作業を行うことがありません。だから当店のは、かつとじ丼のようなスタイルで作っているんですよ」と店スタッフが教えてくれた。「かつ福」のとんかつの基本は、全て作りたての提供。注文を聞いてからパン粉をつけて揚げていく。面倒でもこうすることでいいものを出せる_、そんな見本でもある。

DSCF0230同店では、とんかつだけでなく、ご飯にもこだわりを持っている。肉に合うめしをテーマに独自で三田米をブレンドし、釜で炊いているのだ。炊きあがったご飯は、おくどさんの釜からよそい、茶碗に盛られる。見ただけで艶があって米が立っている。ご飯をテーマにした店かと見紛うレベルで、甘さがある。中谷さんの話では、ブレンドする時にヤマフクモチを入れているそうで、そのせいか、餅米の香りがし、食感の良さも得られるのだ。「食感・香り・甘さとも揚げた豚に合うように設計されています」の言葉に納得せざるをえない。
国道176号線で新三田駅前交差点から近いため、店は便利な所にある。近くにウッディタウンもあるので、店内での提供以外に持ち帰り需要を高めていきたいらしい。そうなって来ると、より店は使い勝手がよくなっていく。「新三田に『かつ福』あり」の呼び声が高まる日も近いように思える。

<データ>

三田ポーク専門 旨い豚 かつ福

住 所 三田市福島412
T E L 079-567-0203
営業時間 平日11:00~15:00(LO14:30)、17:00~21:00(LO20:30)、土日祝日11:00~21:00(LO20:30)
休 み 無休
メニュー

ロースとんかつ定食(150g) 1400円
ロースとんかつミニ(100g) 1000円
三田ポーク食べ比べ定食A(ヒレ・ロース・カルビとんかつ盛合わせ) 1450円
三田ポーク食べ比べ定食B(ロース・カルビ・赤身とんかつ盛合わせ) 1350円
ポークステーキ定食 1500円
Aセット(一口とんかつ+海老フライ) 1280円
Bセット(一口とんかつ+唐揚げ) 1100円
かつ丼 980円

持ち帰り弁当
かつ福弁当A 1000円
かつ福弁当B 800円
かつ福弁当C 1200円
かつ福弁当D 1500円
厚切りとんかつ弁当 1380円

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

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