フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.26:
味噌の地域特性を使ってラーメンを。味噌ラーメンに特化した店が三田市の国道176号線沿いにお目見得
ラーメンは、今や日本の国民食。中国由来の食べ物でも、いつしか日本の風土に根づき、ニッポンらしい味に成長した。その最たるものが浅草で産声をあげた醤油ラーメンであり、札幌発の味噌ラーメン、塩ラーメンであろう。一時はとんこつ隆盛で、右も左も九州発のとんこつラーメンばっかりだったが、このところ大阪発のブームで塩ラーメンが巻き返しを図り、そして再び味噌ラーメンブームへと火が付きつつある。特に味噌は、日本古来からの味で、知らず知らずのうちに親しみを覚えて来た。なので味噌ラーメンは、日本人のココロとも呼ぶべき味かもしれない。福助グループがこの春、三田の国道176号線沿いにオープンさせたのは、そんな味噌ラーメンに特化した「蔵出し味噌 麺場 田所商店 三田店」である。オープン以降、なかなかの盛況ぶりで、アイドルタイムでも食事をしている人が目立つくらい。今回は、そんな「麺場 田所商店 三田店」で、自慢の味噌ラーメンを味わって来た。

日本人に親しみのある味噌を素材にメニュー化

DSC02162ラーメン細分化の時代がまた訪れようとしている。ラーメンは、鶏ガラでだしを摂ったものを基本とし、そこに醤油ラーメンができあがった。塩ラーメンも味噌ラーメンも札幌を中心として流行していた時代もあったが、いつかしらとんこつブームの影に押しやられていったようだ。それが「塩元帥」に始まる大阪塩ラーメンブームが起こり、三田でも福助グループが「塩と醤」をオープンさせて再び塩ラーメンにスポットを当てている。福助がループの福西文彦さんに「次なるラーメンは?」と聞いたところ国道176号線沿いにできた「麺場 田所商店」に連れて行ってくれた。この店は、4月14日に三田郊外の寺村町にオープンしたもの。味噌醸造元の息子であった田所史之さんが2003年に千葉で味噌ラーメン専門店を造り、その後、暖簾分け(FC)展開をスタート。以来、「蔵出し味噌 麺場 田所商店」の名称で全国展開を図っている。「六寶」や「博多麺々」など福助グループでもオリジナルのラーメン店は展開しているが、味噌ラーメンに特化しているスタイルが面白いと考え、福西さんが三田に持って来たようだ。福西さんは、同じブランドを近くにオープンさせないとの信条を持っている。同じようなラーメンばかりだと、喰い合いをしてしまう恐れがあるからだろう。昨年、「宴 福助」跡に塩ラーメンの店をオープンさせたから次は違った風味のものを狙った_、それが「麺場 田所商店」の味噌ラーメンだったわけだ。

DSC02135「麺場 田所商店」のキャッチコピーには、「味噌は日本人の宝物」とある。味噌は古くから造られ、地域ごとに異なる特色をもたらした。その味噌の味わいと素材由来の健康効果を発信していきたいのが「麺場 田所商店」の狙いでもある。味噌蔵をイメージさせる店舗に一歩入ると、味噌の種類を記した木札が掲げられている。北から北海道味噌に始まり、山形味噌、新潟味噌、信州味噌、江戸前味噌、伊勢味噌、西京味噌、広島味噌、九州麦味噌、そして南は沖縄味噌まである。「麺場 田所商店」では、この中より三種類を店舗ごとに選んで基本のメニューを作るのだそう。「麺場 田所商店 三田店」では、北海道味噌と信州味噌、九州麦味噌でラーメンを作って提供している。福西さんによると、「ここに季節メニューとして違った地域の味噌を加えながらやっていく」そうだ。

DSC02136味噌は、日本の食文化を表す素材である。寒い所は塩分が強く、暑い所は甘いといった具合に地域特性が表れた調味料でもある。味噌は、大豆や米、麦などに塩と麹を加えて発酵させたもの。起源は中国の醤(ひしお)や豉(くき)で古代日本へは中国から入って来た。味噌となったのは平安期か。その時代に文献にようやく“味噌”の名が記されている。ただその頃は、今のように調味料として料理に使うものではなく、食べ物につけたりして食した。つまり今のなめ味噌のような感覚なのだ。味噌汁が鎌倉期に登場し、室町期になるとやっと調味料としての発展を見る。味噌文化が庶民にまで伝わるのはそれからなのだ。時代はずっと後になるが、味噌ラーメンは札幌で誕生している。「味の三平」がその発祥として伝えられ、1955年にその店主・大宮守人さんが「ラーメンのスープを味噌味にしたらどうだろう」と思いついて作ったのが始まりらしい。この手の味噌にまつわる話は、ボタン鍋発祥にも見られる。こちらは篠山で軍隊が撃った猪の肉を味噌汁に入れて出したのが始まりといわれている。つまり、日本人には味噌はスタンダードな味で慣れ親しまれているからこそこの手のエピソードが成立する。なので「麺場 田所商店」のキャッチコピー「味噌は日本人の宝物」というのも正しい表現なのだ。DSC02152

ガツンとパンチが効いた「北海道味噌らーめん」

DSC02145ところで「麺場 田所商店 三田店」のラーメンであるが、赤色系の濃口で、米の辛口味噌・北海道味噌と、淡色系のやや濃口・信州味噌、淡色系の甘口・九州麦味噌の三種類が使われている。ともにスタンダードは「北海道味噌らーめん」、「信州味噌らーめん」、「九州麦味噌らーめん」だ。ここにチャーシューをトッピングしたり、味噌漬け玉子やコーン、たっぷりの野菜、肉ネギなどをプラスして食すようになっている。「麺場 田所商店 三田店」のイチ押しは「北海道味噌らーめん 味噌漬け炙りチャーシュー麺」だそう。北海道味噌は、クセのない豊かな香りが特徴。寒冷地なので近畿の味噌のように半年や一年ぐらいでは味噌ができない。長期熟成が必要で、その分、コクがあって味に深みが生まれるようだ。「三田店では、コレが人気です。熟成した濃い味で、その塩辛さは味噌の味だと思ってください」と福西さんは「北海道味噌らーめん味噌漬け炙りチャーシュー麺」を薦めてくれた。具材はチャーシュー三枚に肉味噌、そしてユニークにもポテトフライが載っている。ラーメン自体の風味は濃いが、塩辛いわけではなく、まさに濃厚な印象。これが北海道特有の熟成味噌の味なのだ。福西さんは、「北海道味噌ネギラーメン」も人気があると言う。流石に二つも食せないので肉ネギトッピングを注文して味わってみた。味噌をまとわせたネギが実によく、人気があるのもわかる気がした。

DSC02148一方、「信州味噌らーめん」は、やや濃口の味で、仄かな酸味と芳香が特徴。信州味噌は、全国で四割もシェアがあるというから食べ慣れた味である。さっぱりした中にも旨みとコクがあって、そのバランスもいい。幅広い層に支持されている所以は、信州味噌の普及率も影響しているだろう。私が食べた印象は、味噌汁の雰囲気を有しているラーメンというところか。それだけ信州味噌が一般的に浸透している証しなのだろう。これなら老若男女どこの層でも受け入れられるであろう。「九州麦味噌らーめん」は、特有の発酵香を持ち、柔らかな甘みが特徴で、九州らしい味がする。麦味噌は、本州で造られる米味噌と違い、カロリーや糖質が低め。麦麹と大豆から造られたもので甘みと香りが特徴的だ。九州では地域によってその味に多少の変化はあるが、ほとんどは甘みが強い。この味噌を使ってラーメンを作るのだから当然に味は甘口となる。この店では、チャーシュー載せがよく出るそうだが、私はさつまあげトッピングがいいように思う。地域ラーメンっぽくするのであれば、北海道味噌らーめんには男爵芋のポテトフライがいいだろうし、信州味噌らーめんは、山菜トッピングが合うように思える。

DSC02156「麺場 田所商店 三田店」では、創業店と同じやり方を踏襲し、自店でスープを摂り、自店でチャーシューに味噌を塗って作っている。ベースのスープに味噌を加え、中華鍋で一つずつ味噌を入れて溶くのだ。味噌ラーメンを出す大半の店は、丼鉢に味噌を入れて溶くが、それでは温度が下がるから美味しくないらしい。「加熱することで味噌の香りもさらに立つ」と話していた。このちょっとした手間が味に大きな差を及ぼす。「チャーシューも味噌を塗って一晩寝かせるんですよ。オーダーが通ってから塊をカットして炙って出す。肉ネギだって白ネギに辛い味噌を塗って作っているから旨いんですよ」と言う。麺も太麺でボリューミー。一般的ラーメン屋では120~140gのところ、ここでは160gもある。だから満腹感が得られるのだろう。「一通り味噌の味を試してみましたが、新潟味噌も面白かった」と福西さんは言う。北海道味噌、信州味噌、九州麦味噌のグランドメニューにひょっとしたら季節限定でそれが入って来るかもしれない。こうして考えると、味噌の地域性とそれに特色化したラーメンが味わえる「麺場 田所商店 三田店」は、なかなか興味深いラーメン店である。DSC02131

<データ>

蔵出し味噌 麺場 田所商店 三田店

住 所 三田市寺村町4463-1
T E L 079-556-5550
営業時間 11:00~23:00
休 み 無休
メニュー

北海道味噌らーめん 803円
北海道味噌超バターらーめん 924円
北海道味噌辛味噌らーめん 913円
北海道味噌味噌漬け炙りチャーシュー麺 1199円
信州味噌らーめん 792円
信州味噌野菜らーめん 913円
信州味噌ワンタン麺 902円
信州麦味噌らーめん 825円
九州麦味噌肉ネギらーめん 1001円

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

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