フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.27:
「ニュータウンの発展に寄与できれば…」。熱き想いで木津川市・城山台に伊料理店をオープン
三田“食”紀行と題しながら、今回は木津川市のイタリアンを取り挙げたい。三田を中心に飲食店展開をしていた福助グループが縁もゆかりもない木津川の城山台に店を出した。オーナーの福西文彦さんに聞くと「ニュータウン開発を繰り広げていたかつての三田市と同じような匂いを感じたから」と出店理由を説明してくれた。福西さんが指摘するように木津川は、学研都市の一部で俗にいうニュータウンなのだ。福助グループでは、「この街とともに店も発展して行ければ」との思いから、住民に喜んでもらえるような店づくりを行いたいそうだ。まずラーメン店「塩と醤」を春に設け、続いて夏に「VANSAN」(バンサン)なるイタリア料理店を開いた。今回はその「VANSAN」で食事をして聞いて来た店づくりの思いなどをレポートする。早くも行列ができるこの店で名物料理三品を味わって来た。

ニュータウン化が進む木津川市

DSC02904京都府木津川市_、この町は京都府といえども府の南部に位置する。奈良市に隣接しており、いわば文化圏は奈良にあたる。2007年に相楽郡の木津町と山城町、加茂町とが合併し、木津川市になった。大阪府、京都府、奈良県にまたがる丘陵地には、関西文化学術研究都市が展開されており、愛称として“学研都市”なんて呼ぶ人もいる。木津川市の多くは、その学研都市に属しており、現在でもニュータウン開発が盛んである。今回紹介する「VANSAN」がある城山台も開発が進むニュータウンの一部。これまで三田を中心に店舗展開を行っていた福助グループが、地域的になじみのなかった木津川へ進出したのは、オーナーの福西文彦さんによると、「ニュータウン化が進んだかつての三田に似ている」からだそうだ。

_K4A0378111福助グループは、この地で三つの店をオープンさせようと考えた。まずラーメン屋である「塩と醤 木津川店」を開いた。2店舗目はイタリア料理店のオープンを目指す。それはこの街には若い主婦層が多く、パスタ・ピザを中心としたイタリアンの方に需要があると思ったからだ。以前、フランチャイズショーで目をつけていた「VANSAN」に交渉をし、フランチャイズ出店にこぎつけた。それが城山台にある「VANSAN 木津川店」である。

「VANSAN」は、関西になじみが薄いかもしれない。平成26年の「ビオディナミ新宿店」を皮切りに毎年のように店舗を増やしているファミリーレストラン系のイタリア料理店である。店舗は全国に広がってはいるが、東日本に多く、しかも街中に集中しており、郊外店はそんなに多くはない。関西にあまりないのが丁度よかったと思われる。福助グループも三田駅前でピザ・パスタなどを出す居酒屋をやった経験があったのでその手のノウハウもあってうまくこの地にもはまるのではと考えた。福西さんは、この地は若いファミリーがゆっくり食事できる店がいいだろうと思って「VANSAN」を持って来ることにしたのだという。
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具材かけ放題が話題のパスタ

「VANSAN」は、このところTVなどでもよく紹介されている。パスタにシラスかけ放題、チーズかけ放題、生ハムかけ放題があり、これが売りとなって消費者の注目を集めた。パスタは、デュラム小麦の優しい香りと独自の配合と製法で作ったもの。カジュアルイタリアンのコンセプトに合わせた生パスタである。イタリア中部・トスカーナ地方でよく用いられるパッパデッレ(幅広面)を使った「ナスとモッツァレラのトマトソース」や「スダチと青唐辛子のペペロンチーノ」「ローマ風カルボナーラ」「きのこのバター醤油パスタ」などメニューは魅力的でもある。トマト、オイル、クリーム、ジャパニーズと分けられているパスタメニューの中で「黒毛和牛と黒豚のボロネーゼ」は、コクと旨みが特徴。オリジナルソースの良さを際立たせた食べ応えのある一皿として人気があるようだ。「完熟トマトのポモドーロ」は、濃厚でコクのあるトマトソースにフレッシュ&セミドライのトマトを合わせた、旨みと果実味溢れるシグネチャーパスタである。ユニークなのが「悪魔バンサンパスタ」と銘打ったもので、使われている赤いトマトソースはピリッと辛い。伊料理なのに珍しく刺激的なパスタは、まさに悪魔的嗜好で、一度食べたらとりつかれた(?)ようになるほど。
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数量限定と書かれている、「釜揚げシラスのペペロンチーノ」や「イタリア産生ハムのクリームパスタ」「チーズチーズチーズパスタ」が、今話題のかけ放題系。これらは、順にシラス、生ハム、チーズがかけ放題。私は「釜揚げシラスのペペロンチーノ」を食したが、店員がその場で「ストップ」と言うまでふっくらした釜揚げシラスを載せてくれる。「ストップ」と言いそびれるとシラスでパスタが見えなくなる始末。どこで止めるかは、客次第だが、あまりに多くかけすぎるとしょっぱくなりそうなので適度な所で止めておいた。それでもパスタにはこんもりとシラスが載っており、贅沢感が感じられる。隣席では「チーズチーズチーズパスタ」を注文していたよう。こちらも同じく、生モッツァレラがかけ放題。アツアツの鉄板に載せられたパスタに見えなくなりそうな程のチーズがかけられており、食指が動きそうな一皿だった。福西さんも「このかけ放題が『VANSAN』の売りだ」と話しており、人によっては下が見えなくなりそうなくらい載せているそうだ。あまり多く載せてしまうと原価率がアップしそうで、それはそれで経営側も大変だろうと心配してしまった。
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一方、ピザは、風味豊かな小麦粉を用いてゆっくりゆっくり練り上げて作る。自店の釜で焼き上げて出すのだが、ふわっとしてモチモチ感があるのがこの店の個性でもある。アンチョビ・オリーブ・にんにく・オレガノ・オリーブ油・バジル・トマトソースという内容の「マリナーラ」や、モッツァレラ・ゴルゴンゾーラ・ラクレット・グラナブレンド・クリームソース・くるみ・蜂蜜・ブラックペッパーの「究極のクワトロフォルマッジ」、モッツァレラ・きたあかり(じゃが芋)・たらこ・コーン・マヨネーズ・葱の「たらこときたあかりのピッツァ」などがある。私が頼んだ「イタリア産生ハムとルッコラのサラダピッツァ」は、ルッコラサラダ・モッツァレラ・生ハム・パルミジャーノレッジャーノ・トマトソース・オリーブ油という内容のもので、ピザの上にサラダ然とした具が載り、ヘルシーさ満載。その上に生ハムがぎっしりとある。
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私が食事していると、これまでの取材で見た顔の人がテーブルまで来てくれた。以前、三田の店でお世話になった筒井店長だ。どうやら彼は、この店を成功させるべく、三田からはるばる木津まで移って来たようだ。「食後に『炙りチーズケーキ』でも食べませんか?」と筒井さん。聞けばデザートの目玉らしい。筒井さんが薦めるままにそれを頼んでみた。すると、木の年輪を思わせる器にレアチーズケーキが載って出て来てスタッフがその場でバーナーを用いて炙って出すスタイルになっている。当然の如く眼前で炙っているからチーズがとろっと溶け出す。臨場感もさることながらほんのり温かくなったチーズケーキがサイフォンでたてたコーヒーとマッチする。コーヒーの苦味とチーズケーキの甘さが程よく伝わり、木津川での食事の充実を満たせてくれるのだ。デザートの炙りシリーズは、他にも「炙りバスクチーズケーキ」と「炙りプリンアイス」がある。炙りはしないが、最近流行りの「マリトッツォ」もデザート類としてラインナップしており、プレーンの他にチョコレートやあんバターがあるという。
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福西さんは、この一角を住民のやすらぎの場所になってほしいと考えている。街とともに歩んで行ければと思っているようだ。ならば「VANSAN」をランチやディナーだけではなく、喫茶タイムにも活用してほしいと考えた。「炙りバスクチーズケーキ」や「マリトッツォ」はそんなニーズに応えるためのアイテムになるだろう。ニュータウンが発展する一つの糧(かて)に「VANSAN」や「塩と醤」が担えれば理想的である。

<データ>

イタリアンキッチンVANSAN 木津川店

住 所 京都府木津川市城山台10-36-2
T E L 0774-75-1339
営業時間 11:00~23:00
休 み なし
メニュー

釜揚げシラスのペペロンチーノ 1500円
イタリア産生ハムのパスタ 1600円
チーズチーズチーズパスタ 1700円
〈昼〉
黒毛和牛と黒豚のボロネーゼ 1100円
ナスとモッツァレラのトマトソース 1000円
すだちと青唐辛子のペペロンチーノ 1100円
究極のクワトロフォルマッジ 1200円
たらこときたあかりのピッツァ 1200円
〈夜〉
US牛サガリのステーキ 1290円
バンサンハンバーグ 1090円
完熟トマトのポモドーロ 1300円
揚げナスとベーコンのアラビアータ 1250円
イタリア産生ハムとルッコラのサラダピッツァ(M) 1300円
マリナーラ(M) 900円
シチリアーナ(M) 900円

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

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