フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.1:
鮑のコリコリ食感と三田牛の脂がたまらない ~「田助」でお値うちなコースを味わいました~
神戸に住む者にとって三田は身近なはずなのに、なぜか行ったとしても夜までいないことが多い。かつては田園都市だったこの町も、今や大阪のベッドタウン。大阪も神戸も通勤1時間圏内なら、飲み(食べ)歩いてもおかしくはない。このコーナーでは、グルメ評論家兼フードジャーナリストの私が三田で出合った食について記していく。単なる見聞記ではなく、飲んで食べて話を聞いての実録版。意外(⁉)に食の宝庫である三田をくまなく歩いてレポートする、三田の食体験記である。

福助グループでしか味わえない純米酒

②私が「田助」を知ったのは昨夏のこと。淡路島由良漁協の橋本一彦さん(海幸水産)に連れて行ってもらったのがきっかけだ。橋本さんは、由良漁港で揚がった魚をその日のうちに三田まで届けることがしばしばあるらしい。三田駅前の「田助」にも持って来る。漁港の中でも魚の扱いにうるさい橋本さんが入れているのだから当然その日は旨い魚にありついたわけだ。

③さて、改めて「田助」に行ったのは、2月某日。店名のショルダーに掲げられている“魚と鶏と粋な酒”を味わいに出かけてみた。「田助」は、JR・神戸電鉄三田駅から三田市役所方面へ3分程歩いた場所に位置している。駅前で便利だからだろう、相変わらず賑わっており、男女ともに人気があるようだ。同店は「福助グループ」の一店舗で、オーナーの福西文彦によれば、「オリジナルの日本酒『田助』の名を冠し、日本酒をベースに魚と鶏の料理を楽しんでもらおう」と造ったのだとか。「福助グループ」では、自社が有す田圃(たんぼ)で山田錦(酒米)を栽培しており、それを宮津のハクレイ酒造へ持ち込んで、日本酒にしてもらう。普通、店オリジナルの酒といえば従来あるものにラベルを貼り替えるのだが、同社のは正真正銘のオリジナルの日本酒といえよう。

④⑤

このオリジナル「田助」を中心に「大七」「福泉」などを定番とし、あとはその時々で4~5種の限定銘柄を加える。そんなラインナップで日本酒が味わえるのだ。ちなみにこの店初心者には「お試しセット」がオススメ。これは純米酒「田助」と定番・限定の中から2種がセットになったもの。計三杯で790円と手頃である。福西さんの話では、「田助の飲み比べをやって欲しい」とのこと。これはオール「田助」で、純米酒、生酒、古酒などその時々で入れ替わる。ちなみにオリジナルの「田助」は、淡麗辛口の純米酒。純米なのに吟醸香があるような雰囲気を醸し、キレのある飲み口が特徴で、食中酒には丁度いいのだ。

丹波地鶏を丸のまま入れて自店で捌く

料理の方だが、かなりメニューが豊富な印象を受けた。筒井智弘店長は「夜はアラカルト、コース、宴会料理に分類されます。その時々のシュチェーションで使いわけてもらえれば・・・」と話していたが、私はそんな中でコース料理を選択することにした。

⑥筒井店長が薦めてくれたのは「鮑の陶板焼きと黒毛和牛の炙り寿司コース」(3990円)。前菜が出て、造り、蒸(せい)籠(ろ)蒸し、陶板焼き、天ぷら、牛トロ炙り寿司と続く内容である。前菜は、蒸し鶏根菜添え、スモークサーモンのオニオン巻き、鱈(たら)白子の冷製アヒージョ バケット添え。この日の造りは、朝獲れのハタハタの炙り刺し、ヨコワ、寒鰤(ぶり)で、バーニャカウダで食べる蒸籠蒸しには地元の旬の野菜が出ている。メインの一つ、活けの鮑は陶板ステーキで。これを自家製タレに漬けて食す。天ぷらは、この店らしく丹波地鶏と野菜を揚げたものが盛っている。そして霜降り和牛の牛トロ炙り寿司で締める。

⑦「田助」の特徴は、三田や丹波の素材にこだわっている点。その一つが丹波地鶏で、これは丸のまま仕入れ、店で捌いている。本来、鶏肉は部位ごとにカットしたものを仕入れるのだが、ここでは1羽丸ごとを仕入れて筒井店長らが部位ごとにカットしていくのだ。「鮮度を重視するなら丸から捌くべきでしょう。何でもそうですが、カットしたものを仕入れていたら、どうしても劣化のリスクが加わってしまいます。店で捌けばかなり新鮮な状態で出せるのでお客様にはいいはず」と筒井店長は言う。そういえば、某焼鳥屋の店主は、串に刺した時から劣化が始まると言ってぎりぎりまで串刺しをしなかった。それと理論は同じだろう。丹波地鶏は、他種より少し大ぶりでその分ジューシーさがある。鶏独特の肉々しさ(地鶏特有の硬さ)は少ないが、弾力性があるから食べやすい。「田助」は全てのメニューにというわけにはいかないが、メインの鶏として春日町から仕入れて調理しているのだ。この鶏を使ったものでは「炙り刺身」「タタキ」「もも肉岩塩焼き」「手羽元の八味焼き」がある。「当店には串焼きがあるのですが、それには丹波地鶏を使っていないんです。でも丸から捌いているので余った部位として使用することもたまには…。『焼鳥の盛り合わせ』(8本1200円)に入っていたらラッキーだと思ってください」とは筒井店長の弁。

⑧⑨

今日のメイン「鮑の陶板焼」は、三重の素材だという。テーブルに出す一人鍋のコンロだが、その上で焼き上げて食べてみた。バターの香りが付いて、コリコリした食感は流石に活けの食材。高級食材とされる鮑と三田牛が付いてこの値段ならお得感はある。

⑩最後の牛トロ炙り寿司は、三田牛と書いたが、これも前述の言葉と同じラッキー商品だった。いつも三田牛というわけではなく、霜降りの黒毛和牛がその素材に用いられているらしい。福西さんは、「三田にいるのに三田牛が食せないのはおかしい」との発想からグループの色んな店で三田牛を提供することにしたそうだ。数年前から「三田で三田牛を」とのフレーズよろしく、「田助」でも使うようになっている。現在、三田牛は500頭ほど。頭数が年々減少しているし、価格も高くなっているので仕入れは辛いそうだが、地元愛の強い人なので、あえて居酒屋価格で提供している。本来なら高級ステーキになる食材だからここで出る意義を強く感じながら味わった。

⑪「田助」は、13年前に石焼きの店としてスタートした。店長が代わる度にプチリニューアルをし、今は筒井さんの代になって魚と鶏を中心としたものになっている。福西さんは「筒井店長になって店の雰囲気が明るくなった」と指摘する。30代後半から40代が主客層で平日はサラリーマン層がワイワイ飲りながら楽しんでいる(週末は女性グループが多いそうだ)。アラカルトでも酒と料理を楽しんで3800円ぐらいなら納得がいく。駅前なのでいくら酔ってもすぐに駅に辿り着くし、ご機嫌な気分で電車に乗ってしまえば帰りも楽だ。そう考えながら淡麗辛口の「田助」とコース料理を味わっていた。

<データ>

魚と鶏と粋な酒 田助(でんすけ)

住 所 兵庫県三田市中央町4-24
T E L 079-564-8844
営業時間 11:30~14:00 17:30~0:00(金土は翌1:00)
休 み 日曜(月曜が祝日の時は日曜は営業し、月曜が休み)
メニュー

手羽丸ごと八味焼き 650円
丹波地鶏の岩塩焼 1,200円
明石蛸の生蛸うす造り 780円
ハーブタルタルソースのチキン南蛮 630円
職人さんの本気だし巻 680円
石焼麻婆とうふ~ピリ辛四川風~ 680円
霜降り陶板ステーキ(1人前) 1,400円
かねふく和風明太子のペペロンチーノ 780円
オリーブオイルアヒージョ 地鶏ときのこ 680円

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

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