フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。
ウッディタウンやフラワータウンなど新興住宅地の印象が根づいた三田だが、少し足を延ばすとやはり田園風景が続いている。三田市須磨田_、ここは「福助グループ」が「福助ファーム」を有し、野菜や米(酒米)を栽培している地。点在する畑やビニールハウスは、同社オーナー・福西文彦さんの実家が持っていたもので、数年前にこの家業を引き継ぎ、福西さん自身が農業に勤しんでいる。
福西さんが作っているのは、アスパラガス、キャベツ、白菜、レタス、サニーレタス、絹さや、にんにく、グリーンリーフ、小松菜、水菜、チンゲン菜、ホウレン草、蕪、あやめ、ひの菜、大根、隠元豆、玉ねぎ、スナップえんどう、ブロッコリー、空豆、茄子、水茄子、キュウリ、黒豆、ミニトマト、小芋、じゃがいも、さつまいも、葱、太葱などと多彩。そこに酒米である山田錦も加わる。まさに多品種少量の都市近郊農業の典型だが、ここの目的は一般農家と異なり、「福助グループ」が経営する飲食店に納めることにある。「5~12月は、自家の野菜がメインとなり、半分以上をそれで賄う」そうだから、農業と飲食がこれほど近い形態はなかなかないだろう。
昨今は地野菜ブームで、北海道や信州などの農業大国の品より、近郊農家の素材を重視する傾向がある。大阪の人気中華「農家厨房」の大仲一也シェフも「遠くのブランドよりも近くの新鮮野菜」と言っており、彼も農家や自分の周りで育てた野菜を多用している。流通が良くなって遠くのものがやって来るようになったと感心していたのは一つ前の出来事で、今や農業と直結させるやり方が注目を集めているのだ。
一日のうち午前中は、田畑で作業をして午後からは経営する飲食業の仕事をしているという福西さんが、今最も力を入れているのがアスパラガスの栽培だ。現在は2棟のハウスで行っているが、本年度中に9棟になるらしく、来年からは一般市場(しじょう)への出荷も可能になるという。福西さんは、自家で作るアスパラガスを「三田アスパラガス」と名づけ、他の農家も巻き込んで市場に売って出たいと考えている。
元来、アスパラガス栽培は、他の作物に比して手間のかかる仕事で、設備投資も必要。でも同じ地で3~11月まで収穫できるのと、キャベツや白菜のような重量がないので高齢就農者でも仕事がしやすい利点がある。「蒲郡(愛知)」に見学に行った時にこれなら村で産地化できるのではと思ったんです。一人で管理できる範囲も広いし、値段も稼げます。60代になってリタイヤした人に頼んでも作業ができるのではと思い、一昨年から本格導入をしました」と福西さんは説明していた。
殊、野菜に関しては鮮度に勝る美味しさはないといわれ、農場でもいで食べたものはどれも甘く感じる。これは収穫された野菜が糖度を使って身を保たせようとする自然の摂理。初めは甘く感じるものでも市場に出回り、日がたつにつれ、糖度が失われていく。こうして考えると、福西さんが目指す都市近郊型農業も的を射ており、アスパラガスのような鮮度が大事な野菜は、いい状態のうちに店に届けることができる。「一般流通を考えた場合、朝収穫したとて出荷するのは夕方。産地に近い所でもせいぜい翌日朝に市場に並ぶ程度。普通なら二日後で、採った日から考えると三日も違う計算になるんですよ」と言う。
私も福西さんが営む「ふく助」で、そのアスパラガスを食べたが、甘みがあって食感がいい。鮮度の違いでこれほどまでに味がいいのかと実感した次第である。「採ってすぐは甘みがあるが、それも時を追うごとに薄くなるのが野菜の宿命なんですよ」。この言葉からしても自家の野菜を自店で賄う「福助グループ」の考え方は正解で、野菜の旨さで差別化を図りたいと考えているからこそ、客が集うと思われる。
現在、福西さんが植えているのは、グリーンアスパラガスの「ウエルカム」という品種。これは25cmぐらいまで成長し、量が穫れる特徴を有す。「次は親指サイズの『ガリバー』を植えて、その先はホワイトアスパラガスに挑戦しようと考えています。これは難しく、独活(うど)と同じように光を当てずに育てるんです。しっかりした株でないと弱るので作業が大変です」。
福西さんと一般農家の考え方には根本的な隔たりが生じる。従来の就農者は収穫したものをJAに送り、そこから市場へ回す。そうすればたかが単価はしれている。福西さんは、飲食店を経営しているわけだから、仕入れ値が発想の原点。JAへの卸し値と、飲食店の原材料費は自ずと価格の違いがあるわけだから、農業にお金をかけるのも苦にならない。「飲食店をやって来ているから事業はお金をかけないとできないとわかっているんです。何でも同じですが、人も金もかけないと生産力は上がりませんからね。専業農家は家業でやって来たから、そんな発想をする人が少ないのかもしれませんね」。福西さんは、ある程度人に任せて作農をしている。その中にはかつて企業に勤めていた人で、定年後に畑仕事が好きだからと第二の人生を謳歌している人もいる。「田助」や「ふく助」に勤めるスタッフもシーズン中には田に入り、田植えを手伝うこともあるそうだ。こうして色んなスタッフが農業を体験することで、農業の大変さを知り、自らの手で植えたものが実るのを心待ちにする。年末になると、鍋シーズンが到来し、宴会も多く入る。そんな時はそれに用いる白菜などを集中して栽培するという。何が必要かを知っているので、単種に集中させることも可能で、そこにはやはり飲食店を持つ強みがある。「店で使うので大量にはいらないですよ。でもいろんな種類がいる。だから色んな苗を植えているんです」。将来は苺栽培を手がけたいと意欲を見せる福西さん。でもその裏には、少しでも新鮮なものを顧客に味あわせてあげたいとの心が隠れている。
住 所 | 兵庫県三田市須磨田 |
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T E L | 079-560-2525(福助グループ代表) |
営業時間 | ― |
休 み | ― |
メニュー | アスパラガス、キャベツ、白菜、レタス、サニーレタス、絹さや、にんにく、グリーンリーフ、小松菜、水菜、チンゲン菜、ホウレン草、蕪、あやめ、ひの菜、大根、隠元豆、玉ねぎ、スナップえんどう、ブロッコリー、空豆、茄子、水茄子、キュウリ、黒豆、ミニトマト、小芋、じゃがいも、さつまいも、葱、太葱など ※福助ファーム、三田アスパラについてのお問合わせは福助グループ事務所まで |
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。