フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.3:
一般客も入る明るい食堂—、そのフレーズを具現化した市役所の社食
 社員食堂にスポットが当たり続ける今の世の中にあって理想の形とは何かを求める動きがある。地元食材に特化し、できるだけ安価に…、そんな店が三田市役所内にあると聞いた。早速出かけてみると、女性ばかりのスタッフがいきいきと働き、600円と手頃な値段で定食が売られている。野菜の大半は地元産のもので、農地と消費者が近いために鮮度面では他をも凌ぐ充実ぶりに。野菜不足が叫ばれる中にあってこれほど野菜にスポットが当てられている社食はあるだろうか。三田の米と野菜を特徴の一つとした「さんさん食堂」について今回は語ってみたい。

地元の野菜を多用して社食の個性を出す

 

bcタニタの社員食堂が話題になって以来、何かと社食や学食にスポットが当たることが多くなった。これまでの安かろう、悪かろうの食堂は嫌われ、個性やバリューが求められている。公共施設の食堂もそう。最近ではコンペを勝ち抜かないと、落札できなくなってしまった。

三田市役所でコンペが行われたのは2015年のこと。6社がそれに参加したようだが、結局は企画の良さで「福助グループ」に軍配が上がった。「市側も何かを変えたいと思っていたようです。一般客も利用することができる明るい食堂にして欲しいと言われました」と語るのは、「福助グループ」の福西文彦社長。噂によれば、「350円で定食を提供しましょう」とぶち上げた企業もあったらしいが、逆に職員側が「その程度なら美味しさに期待できない」との拒否反応もあり、価格よりは企画の面白さで勝負した「福助グループ」が選ばれている。この手のコンペは、なかなか難しい。正当な価格を表示したくても、そこは社員食堂なのだからと、低価格がまかり通る。350円の定食とはいかないまでも「福助グループ」とて600円が関の山。色んな地域で公共施設の食堂を営む人達の声を集約すると、「儲かるものではない。むしろ役所の食堂をやることで信用が高まる方が強い」と話している。三田市役所内の「さんさん食堂」を営む福西さんとて同じ気持ちであるはずだ。

dd2JR三田駅から西へ歩いて10分の所にある三田市役所は、拡張工事も一段落し、ベッドタウン的なこの街にしては立派な建物である。その社員食堂を兼ねる「さんさん食堂」は、本館ではなく、向かって左側の二号庁舎1階にある。福西さんが市のコンペに参加した時に訴えたのは、温かいものなら温かく、冷たいものもその温度に合わせて出したいということ。そして地元の食材を多用すると宣言した。前回のコラムでも書いたように「福助グループ」は、三田市内に田畑を持っている。そこでは「福助」や「田助」で使用する野菜を育てており、農と飲食がうまく融合しているのが特徴である。福西さんは、須磨田地区で栽培されている野菜をできるだけ「さんさん食堂」でも用いたいと考えた。自営の「福助ファーム」だけでは賄えないだろうから、あとはJAの直売所から仕入れ、できるだけ地元のものを用いてメニュー組みすることを心掛けたそうだ。「農協と密に連絡を取ることで、直売所からどんなものが出るかを知り、それらの野菜を引き取ることで、自社農園のものと組み合わせて鮮度のいいものを提供できるだろうと考えたんです。市の職員にもできるだけ地元のものを味わってもらうことで、我が町・三田を強く意識してもらいたいんですよ」。

f三田は、俗に三田米と呼ばれる米が有名で、野菜を栽培している農家も多い。大都市のベッドタウンよりも田園都市としての位置づけが古くからあった。そこに福西さんは着目し、地元愛を強固なものにしようとしているのだろう。作物が多く穫れた時は、15分程で到着する距離の「福助ファーム」のものを、逆に自作が少なければ地元JAからの野菜を使ってメニュー組みする。これが「さんさん食堂」の最大の特徴で、ここに惹かれて一般客も通って来る。

定食で野菜不足を補いたい

gh2「さんさん食堂」のメニューは、日替り定食AとBがあり、前者が松花堂風の和食で、後者が1プレートランチの洋食になっている。私が訪れた日は、A定食の主菜が鶏の黒胡椒焼き、副菜が野菜の揚げ浸し、B定食のメインが豚の生姜焼きになっていた。この店をまかされている中谷世志樹さんによれば、ハンバーグや唐揚げがB定食のメインになっていない日は、どうやら和食の方がよく出るらしい。4つの升に総菜が入った松花堂風の和食には、サラダと豆腐料理が必ず入り、あとの2品を日替りにしてメニューを構成しているという。「当初はできるだけ安くと言われましたが、安かろう悪かろうでは話になりませんし、コスト安を追求すると逆に地元のものが使えなくなる。やはり定食は600円が限度でしたね」と福西さんも述べている。食べる側の職員の健康面と素材の良さを考えると、なかなかそれ以下の値段はつけにくいと思われる。それが安価すぎるのなら、やはり出所(中国などの輸入野菜)と品質保持を疑わねばなるまい。コンセプトからも察知できるよう、そうしていないことに「さんさん食堂」の評価がある。しかも土や気候のいい三田の野菜がその値段で食べられるのだからここの良さは市民が一番わかっているようだ。中谷店長に聞くと、「日に150~200人が利用します。昨日は7割の人が定食を注文しました」とのこと。やはり市民が何が特徴なのかを知っている証しでもある。

i「さんさん食堂」は、定食の他にカレーや親子丼(ともに500円)や玉子丼、味噌ラーメン、うどんなどがある。忙しい人向けには持ち帰り用総菜も売っている。中でも「三田牛コンソメカレー」は、三田牛の牛骨からスープを摂ったもので、これまた地元の三田牛専門店に協力を仰ぎ、高級品である三田牛の関連品を使おうと努力しているのだ。「普段、カレーといえばジャガイモがゴロゴロしている印象があるかもしれませんが、うちではそうではなく、玉ねぎを大量に入れることで甘みと旨みを出し、人参なども摺って入れ、野菜イメージを持たせています。米も勿論、ブランド米と呼ばれる三田米を使用し、辛くはない万人向けの味に仕上げているという。

j「福助ファーム」では、6月になると、ホウレン草、うすいえんどう、ひの菜、小松菜、空豆、レタス、茄子、きゅうり、ミニトマト、蕪、ブロッコリー、玉ねぎ、きぬさやなどができるのだとか。それらが定食の素材に使われると思うと、思わず想像を膨らませてしまいそうだ。世の中は野菜不足を叫び、「少しでも多くの野菜を摂ろう」と訴えている。その割りには、多くの昼食処がそれを実現できず、野菜不足気味のメニューに終始してしまっている。「利用者の半分が一般客です」と胸を張るように、三田市民はその必要性もわかって「さんさん食堂」へ向けるのだと思われる。市役所がコンセプトに掲げた「一般客も入る明るい食堂」が徐々に定着している証しである。

<データ>

さんさん食堂 produced by Fukusuke

住 所 兵庫県三田市三輪2-1-1 三田市役所二号庁舎1階
T E L 079-562-3313
営業時間 1:00~15:00(食事は~14:00、13:00~15:00はコーヒーのみでも可)
休 み 土日祝日
メニュー

A定食  600円
B定食  600円
玉子丼  420円
親子丼  500円
カツ丼  650円(大盛カツダブルは800円)
三田牛コンソメのカレー  500円
三田牛コンソメのカツカレー  650円
味噌ラーメン  430円

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

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