フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。
近頃は、自分達の手で野菜を育ててみたいと家庭菜園をする人や、近所に小さい畑を借りて野菜を育てている人が多い。それほどまでに、食育に対する高い意識や食への安全性などが広く普及しているのだと感じる。数年前から「食育」という言葉をよく耳にするようになった。そもそも食育とは、『生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるものであり、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実現することができる人間を育てること』と農林水産省のHPにある。近年は、家庭環境などの変化により、個食・孤食などの増加によって食育の重要性が重視されている傾向にある。「福助グループ」もそんな傾向に反応を示し、食育に真摯に取り組んでいると思われる。
6月のある晴れた日曜日、小学生の子供を持つ家族を中心とした総勢70名以上の人が三田市須磨田にある福助ファームに続々と集まってくる。これは福助グループと三田食楽研究会が主催する田植え体験が開催されるため。「福助グループ」の福西文彦社長によると、「このイベントは15年程前から行っています。始めた当初は、地元・三田で農業を営んでいる独身男性とのお見合いをテーマとして行っていたこともありました。現在のように小学生を中心としたイベントにしたのは9年前からです」とのこと。三田市や教育委員会に出向いて趣旨を説明。その結果、三田市内の小学校に田植え体験のチラシを配布し、今や受付開始から8分程で定員に達してしまうほどの大人気イベントに成長したそう。
着替えをすませた参加者たちは、晩生の山田錦の苗を植える。福助ファームでは、酒米である山田錦を栽培しているのだ。秋にはこの稲を宮津のハクレイ酒造に持ち込み、福助グループオリジナルの日本酒「田助」をつくってもらい、その後グループ内の店舗で提供する。
田植え体験の参加者たちは、まず田んぼで福西さんより、直接田植えのやり方などの簡単な説明を受ける。ユーモアを交えて話す福西さんの言葉に大人は勿論、子供達も真剣に聞き入っている様が印象的だ。説明の後は実際に田植え体験が始まる。参加者の中には数年連続で参加している人もいるそうだが、この日は、ほとんどが初参加の家族ばかり。子供達だけでなく、大人も田んぼに足を踏み入れるところから恐る恐るといった様子である。山田錦の苗を3~5本ずつ植えていくのだが、これがなかなかの重労働。実際に参加した小学生の子供がいる親に話を聞いてみると、「子供は喜んで田植えをしていました。途中、疲れたようで休みながらのゆっくりペースでしたが、よく頑張ったと思います。田植えよりも、田んぼの中にいるカエルやおたまじゃくしに夢中になっていたようですね。それもいい経験です」と話していた。実際に、田植え体験を終えた子供達は、田んぼの周りでカエルやアメンボを見つけては楽しそうな声を挙げている光景をよく目にした。同じ三田市内に住む子供達がほとんどなのだが、彼らが住んでいるのはいわゆるニュータウンが中心で、むしろ整備された町。こんなに自然豊かな場所は同じ三田市といえど、珍しいのであろう。
「田んぼの仕事は細かく美しくはできないんです。楽しみながらやってもらえればそれで充分です」と福西さんは言う。実際に、田植え体験をした田んぼと、田植え機を使った田んぼを見比べてみると、一目瞭然で前者は、稲がガタガタに植えられている。しかし、福西さんによると「こういう状態でも稲刈りの時季には、田植え機を使った田んぼ同様に、しっかりと稲が育って山田錦がなっているから不思議ですよ」とのこと。稲刈りのシーズンになると、田植え体験の参加者を中心に声をかけて稲刈り体験も行っているのだと言う。「都合にもよりますが、だいたい7割の人が稲刈りにも参加してくれます。自分達の手で植えた稲を刈るというのもなかなかできない体験ですから、皆さん喜んでくれています」と福西さんは語る。
田植え体験の後は福助グループの特製弁当などが用意されたお楽しみの昼食時間が始まる。福西さんは、「うちの田植えイベントが人気なのは、体験をした後に“食”イベントがセットになっているのも大きいと思いますよ」と笑顔で話していた。屋外に並べられたテーブルの上には福助ファームで採れた新鮮な野菜を使ったサラダ、玉ねぎの挟み揚げなどが盛られたお弁当が並べられている。その他にも、福助グループのスタッフが朝早くから準備をしていた出来立ての「具だくさん味噌汁」やおにぎり、藁で豪快に炙ったサーモンを使った「わら焼き!!炙りサーモンのさっぱりサラダ」などが振る舞われる。さらには、前年に同じ田んぼで収穫した山田錦から造られた「田助」の試飲もあるので、こちらは親向け。つまり家族全員で楽しめる内容となっている。田植えをした後の昼食は格別なようで、ほとんどの人が完食をしていた。昼食が一段落すると、福助グループのスタッフによる「おむすび教室」が始まる。これは子供を対象にしたもので、炊き立てのあったかいご飯を直接自分の手で握って食べるというもの。今は、衛生面の問題などからおにぎりをラップ等で包んで作ることが多いが、スタッフ曰く「やっぱり手で握ったおにぎりの美味しさは格別です。その美味しさを子供達に実際に体験して知ってもらいたいんです」。
昼食の時間が終えると、次はビンゴ大会が始まる。景品は福助グループの食事券や協賛品などがあるのだが、中でも人気は採れたて野菜の詰め合わせだ。これは参加者が田植え体験をしている間に、田んぼの隣りにある福助ファームの畑から福西さん自らが選んで収穫した、文字通り採れたての新鮮な野菜たち。今回はサニーレタス、きゅうり、ブロッコリー、玉ねぎなどなど。「野菜は採ってすぐが一番美味しいので、その新鮮さを実感してもらいたいんです」と福西さんは話している。
田植え体験の参加者に話を聞くと、皆、口を揃えて「このイベントに参加してよかった」「またこのような機会があれば参加したい」と言う。それほどまでに、この企画の魅力や食育の重要性が参加者に伝わったということなのだろう。福西さんは「既に多くの人が参加してくれているイベントですが、もっと皆さんが楽しめるような企画を考えて、よりよい形にしたいと思っています」と話していた。
住 所 | 三田市須磨田 |
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廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。