フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.14:
三田のアスパラガス、酒どころ灘へ行く
福助グループのひとつ、福助ファームではアスパラガス栽培に力を入れている。これは福西文彦オーナーが、蒲郡でその栽培を見学し、農業就労者の高齢化を見越して三田にも導入したことによる。いずれ三田をその産地にしたいと思っての栽培育成を行っているのだ。4月下旬に灘の酒蔵で三田牛「廻」とともに福助ファームのアスパラガスをテーマにした食事会が開かれた。牛肉に負けず劣らぬくらい評価を得た三田アスパラガスは、この食事会を機に広く一般消費者に伝えたい産物である。今回は「さかばやし」で催された三田テーマの食事会についてふれてみる。

いずれ三田をアスパラガスの産地に

DSCF0262灘の酒蔵「神戸酒心館」が1~2カ月に一度、旬の食材をテーマに行っている食事会がある。「旬を堪能する会」と題したこの催しは、常に盛況で、蔵の料亭「さかばやし」の2階フロアを使って30~40名くらいを集めて行われている。これまでも半夏生に合わせて明石タコや、丹波の夏鹿、淡路島の三年とらふぐ、丹波・婦木農場の野菜と色んなテーマで開催され、時には生産者もいっしょに賑やかに日本酒と〇〇づくしの会席料理を楽しめると評判がいい。今年の4月26日には、三田を主テーマとして「三田牛"廻"のすきしゃぶと生酛純米酒を楽しむ会」が企画され、30名以上の食通が集った。

DSCF0271この4月の「旬を堪能する会」が企画されたのは、福助ファームのアスパラガスがきっかけ。昨年、神戸酒心館と福助グループの福西文彦さんが出会い、意気投合したことから立案されたものだ。昨秋、「宴 ふく助」で「福寿」(神戸酒心館のブランド)を飲む「日本酒と落ち鱧の夕べ」を開催し、その返礼ではないけれど、今年の春に「さかばやし」で福助ファームのアスパラガスを食べる会を行う_、そんな相互的企画が昨春ぐらいから考えられていた。「さかばやし」の「旬を堪能する会(三田テーマ)」が4月26日になったのは、アスパラガスの生育を見越して。福西さんが育てているアスパラガスが春には顔を出し始め、3~4月頃がいいと聞いたことによる。そのため、「宴 ふく助」での酒の会(福寿テーマ)の方が先になった。

DSCF0281福助ファームでは、キャベツ、レタス、白菜、葱、ミニトマトなど季節に合わせて色んな野菜が栽培されている。主は福助グループ内の飲食店で使うためだが、福西さんはその中でもアスパラガス栽培に注力したいらしく、自店だけではなく、一般消費者が求められるくらいの量を栽培したいと考えているようだ。そして将来は、三田アスパラガスとブランド化し、三田をその産地にしたいとまで話している。そんな野菜づくりに共鳴したのが「神戸酒心館」の久保田博信副社長で、「それなら『さかばやし』で三田アスパラガスを使って食事会を催しましょう」と相成った。けれど、アスパラガス一本ではPRするのに線が弱く、アスパラガスづくしもしずらいだろうと、三田牛をメインに打ち出し、「三田牛"廻"のすきしゃぶと生酛純米酒を楽しむ会」と銘打って募集したわけである。くしくも三田牛の世界では、11月に新たなブランド「廻」を設立したところだったので、そのPRを兼ねて三田牛「廻」をメインディッシュにして、福助ファームのアスパラガスをセカンド食材にメニューづくりを加賀爪正也料理長(さかばやし)が行った。流石に三田牛とアスパラガスだけでは構成しづらいので、あとは三田独活などオール三田野菜で料理を作っている。当日、会席料理として供された献立は下記の通り。加賀爪料理長曰く「廻を主に構成したので予算の関係からいつもの旬の会より一品ぐらい少なめだったが、いい素材が集まったので、納得のできる料理になったのではないだろうか」との感想であった。

三田牛「廻」のすきしゃぶと生酛純米酒を楽しむ会 特別献立
先付 三田産菜の花と蛍烏賊
三田産アスパラガス
蛇の目ラディッシュ
黄身酢 土佐酢
前菜 三田産野菜の三種盛り
法華草の白和え
小松菜のお浸し
水菜の胡麻和え
造り 初鰹の叩き
三田産サラダ仕立て
三田産山椒ポン酢ジュレ
主菜 三田牛「廻」のすきしゃぶ ももとロースの食べ比べ
三田産アスパラガス 新玉葱 椎茸 白葱 焼豆富 水菜
食事 三田産アスパラガスと桜海老の炊き込み御飯
赤出汁 香の物
甘味 三田産苺と酒粕アイス
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新鮮な魅力をもぎたてで発揮

DSCF0266この献立とは別に当日、福西さんがもぎたてのアスパラガスを持参してくれた。食事会で福西さんがアスパラガス栽培の話をし、その立派な(鮮度のいい)アスパラガスを各席に回して見してもらった後で、調理場でさっと湯がいてもらい、軽く塩を振って提供した。アスパラガスは鮮度が命の野菜で、一般市場に回った時点では鮮度が少し落ち、旨みも当然少なくなってしまう。当日持参してもらったのは、まさにもぎたてレベルで、さぞかし旨みが高かったと思われる。それが証拠に湯がきたてのそれを口にした時に、思わず歓呼の声があがっていた。

DSCF0276参加者はつけ塩を添えていたために当初はそれをつけて食べた人が多かったが、大半は「甘みがあるので何もいらない」と言い、二口めからはそのまま味わっているのが目についた。当日福西さんが持って来たのはガリバーといわれる品種で、緑が映えてまさに立派なもの。その大きさもさることながら見ために鮮度のあるアスパラガスは、参加者全員に印象づけられたらしく、福西さんはもとより私にまでその感想を伝えて来る人が多くいたくらいだ。

DSCF0278ある学者に話を聞くと、アスパラガスは疲労回復に効果的なアスパラギンを多く含むそうだ。健康ドリンク「アスパラエール」で謳われているアスパラギン酸がそれで、アミノ酸の一種とのこと。他にもタンパク質、ビタミンA・B・C・Eをバランスよく含んでいる優秀な野菜なのだ。ルチン、アントシアニン、ビタミンは穂先に多く、下にいくほど少なくなる。また細いものより太いものの方が旨いので福西さんがガリバーを持って来たのは正解なのだろう。

DSCF0280そもそもアスパラガスが日本にもたらされたのは江戸期で、出島に着くオランダ船が持ち込んでいる。だが、食用として導入されたのは明治期で、大正期になってから本格的栽培がスタート。皮肉にもそれが流行したのは欧米への輸出缶詰に用いるホワイトアスパラガスだったという。日本で最初に栽培を行ったのは北海道・岩内の下田喜久三(農学博士)。それに起因しているのかどうかわからないが、北海道が主産地で、その他では長野や佐賀が有名産地とされている。

DSCF0284福西さんがアスパラガスを栽培しようと思ったのは、愛知県の蒲郡に農場見学に行ったことがきっかけ。今は日本国中どこもそうだが、三田でも農業就労者の高齢化は否めない。高齢になると、重いものは持ちにくくなり、キャベツや白菜といった大物野菜づくりがつらくなる。アスパラガスなら重量はなく、おまけに値も稼げる。しかも一人で管理する範囲広いから定年後に農業を始めた人でもやりやすい産物だというのが福西さんの産地化への判断基準だった。ところが設備に費用がかかるのがネック。なので福西さんが自身の畑に投資して事例を示すことで、他の農家へ栽培を働きかけようと目論んでいるそうだ。仮りにこれが成功すれば、三田アスパラガスは神戸など都会の消費地へ近いために遺憾なくその特性が発揮できる。そんな思いもあっての栽培であろう。そういった意味では、「神戸酒心館・さかばやし」の食事会は、その思いを地で行った企画となった。三田牛「廻」の旨さとともに三田アスパラガスの味がうまく伝えられただけでも成功といえよう。

<データ>

神戸酒心館「さかばやし」

住 所 神戸市東灘区御影塚町1-8-17 神戸酒心館蔵内
T E L 078-841-2612
営業時間 11:30~14:30 17:30~22:00
休 み 大晦日、1月1日~3日
メニュー

※「さかばやし」の三田テーマの食事会は2018年4月26日だけ行われたものです。

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

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