フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.15:
伝助穴子は、しゃぶしゃぶに限る!漁師町のごちそうを、いざ三田で実践
何回か、このコーナーにて「宴 ふく助」のテーマ別食事会をレポートしているが、今月もその手の話を書きたい。5月29日夜に催された「美酒美食の宴」は、三田では珍しい穴子のしゃぶしゃぶをメインディッシュにしたものだった。穴子といえば焼きか、蒸しと相場は決まっているが、穴子の名産地・淡路島では時折りしゃぶしゃぶが食されている。今回は由良漁協・海幸丸水産の橋本一彦さん協力のもと、それをテーマにして食事会を行うことになった。しゃぶしゃぶにするならかなりの肉厚が必要で、そんじょそこらの伝助穴子ではなかなかできない。漁場の達人が持ち込んだ大物穴子を使ったしゃぶしゃぶについてレポートしよう。

800gもの大物穴子がキターッ

DSCF0479当たり前の話なのだろうが、三田は陸地で海はない。かつて水軍として活躍した志摩の九鬼氏が徳川政権で三田を所領地としてもらい、以来陸(おか)に上がった河童の如く三田の地を治めた(三田に封した理由は、徳川幕府が九鬼氏の水軍を恐れたからだとも伝えられている)。だから三田に海がない_と、言ってしまえばそれは揶揄しすぎだろう。海のない土地故に、当然ながら魚介類への思いが強い。三田だけではないが、内陸部にある町ではいい魚を持って来れば、十分勝負になると考える。昨秋から時折り、「宴 ふく助」で催されているテーマ別食事会には、魚介類仕入れを淡路島由良漁協の海幸丸水産が協力している。同仲卸しの橋本一彦さんと、福助グループのオーナー・福西文彦さんとは古くからのつきあいで、この「宴 ふく助」や「三福」にも海幸丸水産が直接魚を届けているのだ。漁港で揚がってすぐの魚が出るのでその鮮度は抜群。橋本さんは築地や神戸の中央卸売市場で取引するのが主で、個店には卸さない人なので、いかにこの魚が貴重品かわかってもらえるだろう。

DSCF04895月27日に催された「宴 ふく助」のテーマ別食事会「美酒美食の宴」は、由良漁協で水揚げされた伝助穴子と、福助グループのオリジナル日本酒「田助」がメイン。くしくも二つの「でんすけ」をテーマ食材として選んで宴会が行われた。皆さんも伝助穴子とはよく耳にする食材であろう。穴子の大きなものを指すのだが、実はこの名称は兵庫の呼び名で、淡路島由良へ行くと黒穴子を指すらしい。一方、明石浦漁協では300g以上のものを伝助と呼んで区別している。穴子といえば一般的な大きさは100~150g。300gというと大きいとわかるだろうが、この日橋本さんが持ち込んだのはなんと800gもあった。穴子は焼きか、蒸しと相場が決まっているが、淡路島の漁師町ではしゃぶしゃぶで食べるという。一般的な100~150gでは到底、身が薄いのでしゃぶしゃぶにはできない。漁師町では巷にあまり流通していない大きな穴子を用いてしゃぶしゃぶにする。世間で穴子のしゃぶしゃぶが広まらないのもそんな事情が因している。

DSCF0503ここで「宴 ふく助」で催された「美酒美食の宴」の献立を記しておこう。
前菜 穴ざく、養老豆富、 かえで冬瓜
造里 鱸の洗い
焼物 足赤海老塩焼き、酢取蓮根、 トマト蜜煮
揚物 伝助穴子天婦羅 アスパラ 茄子 岩塩
台物 伝助穴子しゃぶしゃぶ
(白菜 水菜 占地 榎木 豆富 玉葱 人参薬味 ポン酢)
締め 素麺
デザート 西瓜
飲物 挽き立てコーヒー

DSCF0509前述したように主菜は台物として表焼されている伝助穴子のしゃぶしゃぶだ。鍋に野菜を入れて煮て、それから箸で穴子の身をつまんで、鍋の中で少しだけ火を通す。好みがあるだろうが、せっかくの新鮮素材なので私はしゃぶしゃぶする程度でいいと思っている。皮が少々硬かろうが、身が鍋の中で花開いたらすぐに味わうことにしている。橋本さんが持って来たものは、穴子といえどかなり太いので骨が当たる。なので鱧と同様に下処理として骨切りが必要となる。伝助とは兵庫県の呼び名と書いたが、調べてみると独活の大木の如く、大きくて使い物にならないことを意味するそうだ。兵庫県の民話に伝助なる大男の話があるといわれていたが、調べた限りではそんな話が見当たらなかった。香川県では、大きな穴子を「べえすけ」と呼ぶらしい。すけべの反対読みのようだが、その意味は想像にお任せする。

DSCF0511鱧のしゃぶしゃぶと似た雰囲気はあるが、鱧と比べると穴子の方は少々脂っぽい。ところがこの脂っこさがクセになるらしく、しゃぶしゃぶは穴子に限るというファンもいる。伝助穴子が骨が太くて食べにくいと敬遠されていたのは昔の話で、今は食べ応えがあると高値がついている。そういえばこのところ海は不漁続きで、色んなものの水揚げ量が少なくなっている。穴子はその最たるもので、橋本さんに言わせると、高級魚の鱧の倍の値がするそうだ。そんなわけで穴子づくしはしづらかったのか、中野料理長は足赤海老や鱸を仕入れて福助ファームのアスパラガスを混ぜながら上手に献立を作っていた。

オリジナルの「田助」と希少品「ひょうたんからこま」を飲む

DSCF0488ところで伝助穴子ともう一つのテーマ素材となるのがオリジナルの「田助」だ。この日は特別純米に原酒、三年古酒などが提供されていた。「田助」は丹後のハクレイ酒造で醸されている。なので同酒蔵から製造部の山本桂司さんをゲストに呼んでいた。山本さんはJAで勤めた後、33歳で転職して酒づくりを行うようになった。自分が造った日本酒片手に、自らが釣った魚をアテにして一杯飲るのが、この上ない楽しみだという。

DSCF0499ハクレイ酒造では10月中旬から3月半ばまで酒づくりが行われている。そのうち福助グループの「田助」は2~3月に搾る。自らの地で田植えをし、秋に刈った山田錦をハクレイ酒造へ持ち込んで「田助」を造るらしく、すでに16年目に入ったと福西さんはオリジナルの酒について述べていた。福西さんは「香田」が好きで9号酵母で造りを行うハクレイ酒造へ話を持ち込んだのが「田助」誕生のきっかけ。食中酒としては上々の出来で、純米酒なのに吟醸香のような香りを放つ点が気に入っている。

DSCF0531せっかくハクレイ酒造の山本さんをゲストに迎えたのだからと、私のリクエスト「ひょうたんからこま」を持って来てもらった。同酒は純米造りで規格外米だが、山田錦100%で仕込んでいる。杜氏見習いの人が練習で造ったのがきっかけだが、意外にもそれが美味しくて商品化された。練習用なので山田錦の規格外の米を使用したのだ。だから純米酒と謳えないらしい。造ってみたら出来がいい酒だったので「ひょうたんからこま」。ネーミングもよければ、エピソードも面白い。山本さんに言わせれば、かなり数は少ないらしく、私に「よくご存じでしたね」と言っていた。かつて私がJR大阪駅の御堂筋口プロデュースに参画し、「凛」なるJR西日本フードサービスネットの店を造った。その際にハクレイ酒造の中西社長からエピソードを聞いて興味津々で仕入れた。味もよかったので「凛」では常備していたのだ。今回はせっかくの「美酒美食の宴」なので、「田助」以外でハクレイ酒造の絡みの商品ならと我がままを言って届けてもらった。「酒呑童子ひょうたんからこま」は、それくらい希少品なのだ。
毎回書いているが、「宴 ふく助」のこのイベントは、いつも盛り上がる。いい酒といい料理があれば尚更のことで、この日も22時過ぎまで宴が繰り広げられていた。魚の獲れない三田で、漁場レベルのものを出したい_、それがオーナー・福西文彦さんの思いである。メニューに書いただけではわからないが、こうしてゲストを呼んで企画することで店のこだわりが訴求できる。そういった意味でも「美酒美食の宴」は素晴らしい。

<データ>

宴 ふく助

住 所 三田市南が丘1-50-3
T E L 079-563-1660
営業時間 11:30~15:00 17:00~22:00
休 み 月曜日(祝日の場合は営業)
メニュー

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

戻る
QR Code Business Card