フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.18:
三田牛には、酒の縕蓄と裏話がいいアテになる!? 三田牛「廻」すき焼きを、広島の銘酒「酔心」で味わった。
2017年に"日本酒と落ち鱧の夕べ"を開催して以来、「宴 ふく助」の美酒美食の会が好評を博している。11月7日に行った第4回目は、テーマを三田牛「廻」のすき焼きにしてDJ・中野耕史さんをゲストに迎えて催された。会は、中野さんのコーナーからスタートし、醉心山根本店の小野卓也さんや三田山田錦部会長の前澤昌宏さんへのインタビューがあって食事へと移る構成である。マネージャーの中谷世志樹さんが「いつものすき焼きではなく、趣向を凝らした」と言っているように素材の良さは勿論のこと、「ふく助」らしい内容もこの会には盛り込まれている。

超軟水で仕込んだ広島の醉心

DSCF0540三田牛をテーマにした「宴 ふく助」の美酒美食の会が台風でずれ込んだ。予定していた9月4日は丁度台風上陸にあたっており、中止となったのだ。月をずらして開催しようと「ふく助」のスタッフが奔走し、11月7日に再度催すことにしたのである。9月の開催はまだ暑いので、三田牛のすき焼きにあてる日本酒を「福寿」の凍結酒に定めていたが、さすがに11月ではそれも季節的に合わないだろうと、酒を広島の「醉心」に変更し、醸造元・醉心山根本店から営業担当の小野卓也さんをゲストに招いた。小野さんは、営業部に異動する前は醸造に携わっており、酒づくりを熟知している。

DSCF0576「醉心」の特徴は、軟水仕込みにあると話していた。一般的に軟水といわれるのは、硬度が74度らしいが、「醉心」は14度の水で仕込んでいる。灘の宮水が157度あることから考えてもかなり柔らかいことがわかる。概して広島の酒は甘めである。これは軟水で仕込むからで、それで造られた酒は、口当たりのまろやかさが出るのだ。先の数字が示すように三原で造られている「醉心」は"超"が付くほどの軟水仕込み。広島中央部鷹の巣山山麓から湧き出る伏流水は、ミネラル分をほとんど含んでいない軟水なのだそう。これで酒造りをすると、酵母はゆっくり醗酵し、きめ細かくてすっきりした飲み口になるという。だから「醉心」は、ふくよかで上品な甘みと旨みを有し、軽やかで香り高い酒になる。

DSCF0579では、三田牛に合わせるのに、なぜ三原の酒なのかというと、この蔵が三田の山田錦を使っているからだ。きっかけは昭和33年に農協(今のJA兵庫六甲)が醉心山根本店に売り込んだことによる。それまでは雄町を使用していたが、当時の社長がそれに乗って山田錦を使い始めた。この時代は、まだ山田錦が持て囃されてなかったのでかなり先見の明があったといえる。当日、食事に来ていた前澤昌宏さん(JA兵庫六甲三田山田錦部会長)も「三田は寒暖差が激しいから山田錦栽培には向いている」と話しており、全国の酒蔵がそれを欲しくて仕方がないのを見ても賢明な選択であったことがわかる。小野さんは、同蔵で産する「郷の香」と「三酔」はJA兵庫六甲とのコラボ商品だと紹介していた。前者は純米酒ですっきりと飲みやすく、後者は純米大吟醸でJA兵庫六甲のPB商品になっている。小野さん曰く「三酔はすき焼きにマッチする」そうだ。ちなみにこの日は5種の「醉心」が用意された。ラインナップは「100%山田錦純米吟醸」「瓶囲い山田錦純米吟醸」「別取醉心」(生酒)「郷の香純米酒」「三酔」である。

DSCF0549今回の美酒美食の会には、もう一人ゲストがいる。kissFM KOBEで月~水曜の「フォーシーズンズ」で担当するDJ・中野耕史さんがスペシャルゲストとして参加してくれ、会の冒頭に自身の話を披露してくれた。中野さんは音楽のある場所で過ごしたいと考え、DJを志した。意外にも昔は人前で話すのが苦手だったらしいが、なぜかDJを生業にしている。DJといえば昔は「イェ~イ!」と叫び、米国人よろしく、威勢よく番組を進行したものだ。「決してそんなタイプではない」という中野さんは、むしろ自分で取材し、構成を作る_、そんなスタイルを持つDJなのだ。「ラジオ局は地域に目を向けるべき。自分で話を拾って来るのが私のスタイル」と話す。そんな中野さんが番組内でやっているのが「中野耕史、料理への道」なるコーナーだ。単に料理を作るのではなく、その前段階からやるのがコーナーの面白さで、例えば包丁を作りに三木の刃物製作所に行ったり、俎板用の木を六甲山で切り出し、宍粟市の工房へ持ち込んだりする。つまり一から十まで中野さんが行って道具を揃え、それから料理づくりに挑戦するという内容なのだ。この苦労話を面白おかしく語ってくれた。今回は番組裏話も聞ける美酒美食の会になった。

変化球ともいえるすき焼きスタイル

肝心の料理はというと、以下のような献立。「ふく助」のオーナー・福西文彦さんが、三田牛「廻」のブランド化に協力していることもあって当然、素材(牛肉)は「廻」である。

DSCF0564
先付 三田栗の渋皮煮 紅葉仕立て
凌ぎ 三田牛廻炙り寿司
鍋物 三田牛廻すきやき(リブロース・うちもも・トモバラ)
食事 三田米コシヒカリ土鍋炊き
香物 自家製柚子蕪漬け
留椀 三田やまびこ味噌使用 けんちん汁
デザート ヨーグルトシャーベット 三田産梅ジャム掛け

DSCF0569今回のすき焼きは、一般的なものとは少し異なる。まず一口ステーキのようにうちももを焼いて食べ、次にリブロースとトモバラをだし醤油ですき焼きにする。なので鉄鍋の横にだしを張った土鍋が置かれ、そこから掬って割下のようにだし醤油を用いながら煮込んでいくのだ。福西さんから「形の良い松茸が入ったから」とスペシャル具材の差し入れがあり、会はさらに盛り上がっていく。神戸ビーフより上とされる「廻」はあるは、松茸はあるはで、かなり贅沢な鍋になったと思われる。これに「醉心」が合わぬわけはなく、いつもの如く大宴会的な雰囲気になった。

DSCF0570今回、小野さんから聞いた話で面白かったのを一つ紹介しよう。それは酒づくりをしている時は、決して納豆を食べてはいけないことになっているそう。何でもねばる菌が麹に付くととれなくなるそうで、蔵人間では冬場は納豆禁止令が出る。みかんもダメなものの一つで、酸が増えると嫌うから。なにしろ柑橘系は食べられないと話していた。前述の中野DJの話にしろ、小野さんの話にしろ、裏話が聞けるのも美酒美食の会のいいところ。食べるだけではなく、何かエンタメ性が加えられればと考える福西オーナーの主旨も少しは理解できた。

<データ>

宴 ふく助

住 所 三田市南が丘1-50-3
T E L 079-563-1660
営業時間 11:30~15:00 17:00~22:00
休 み 月曜日(祝日の場合は営業)
メニュー

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

戻る
QR Code Business Card