フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。
三田駅前に「大衆焼肉・ホルモンやまだ」ができてから駅に立ち寄る人が店舗に目を向けるようになった。それくらい同店は存在感があり、店舗として目立つのだ。そこから少し行った所にさらに名物店舗がひとつオープンしている。聞けば7月の開店らしく、こちらは「鶏かわ屋」の店名から察知できる通り、テーマは焼鳥である。この店を立ち上げから任されている筒井智弘店長に聞くとやはり鶏皮がメインらしく、中でも「ぐるねじ黒皮串」が一番の売りだそう。福岡に行くと、居酒屋や焼鳥屋で皮をぐるぐるねじって串に刺した焼鳥をよく見るが、関西でそれが味わえるとは珍しい。出張で九州から来た人が、関西でこの手のものを出す所もあるんだねって注文したらしく、まだ関西には根づいていない一品なのだ。
この手の焼鳥は、一般的な皮焼きと串の刺し方が違う。ねじりながら縫うように仕込むのがコツで、こうすることで焼いた時に外がパリッとし、中が旨みの残ったジューシーな感じになるのだ。「鶏かわ屋」では、一旦下焼きした後にタレに浸けて一晩寝かせてから焼いている。タレはオリジナルのもので下焼き後、常温でさましながら味を染み込ませていく。「急にはできないんですよ。前もって下処理と調理をし、注文後さらに火を入れて仕上げていく。そうしないとこの味は出せません」と筒井店長が話していた。皮をねじっているのがポイントで、そうしないと単なる皮焼きになってしまう。ねじることでスカスカした味わいには決してならないし、外と中の食感の違いも出る。パリッとした食感が初めに来て次に旨みが残った味わいが舌に伝わる_、これがいいのだ。「名物ぐるねじ黒皮焼」は一本からの販売で、138円。値ごろ感もあるし、メニュー上で押している点もあってかなりの人が注文するそう。「一回頼むと、さらに追加オーダーが通る商品です。初めから一人4本ずつ頼む人もいますし、先日来た8人のお客様はまず16本注文し、さらに16本、そして8本と、三回もオーダーが通ったんですよ」。
「鶏かわ屋」は、低温調理も導入し、「鶏肝とろパッチョ」や「もも肉炭火焼き」「トロ胸肉とクリームチーズの明太ユッケ」などを提供している。筒井店長によると、福助グループの他店で牛タンを用いた時にその手法を取り入れたことがあるらしい。低温調理することで中がしっとりして旨くなる他に安全面でも秀でる。火が入っているので菌がすでに死んでしまっており、繁殖することがない。「鶏肝のとろパッチョ」などは、真空にした後に60℃で40分間火を入れる。このように低温で調理していくことで食感がとろっとした状態になって、仮りにそれを焼き上げてもしっとりした食感が残るのだ。「もも肉や胸肉は焼きすぎるとカスカスになるんですが、低温調理だとそうなりません。安全面はもとより、そんな利点もあるんですよ」と筒井店長が教えてくれた。
最近はインスタグラムが大流行りで、いずこもそれを意識した盛付けやメニューを出しているが、ここは筒井店長がいるだけにそれを意識しないわけがない。「鶏かわ屋」の中で最もインスタ映えするのがその名もズバリ「映え〇丸ごとパインサワー」だろう。これは最初からインパクトのあるものを出すと面白いと筒井店長がSNSでの伝播を狙って考えた。筒井店長は果物を丸ごと使えるものはと探したところ、メロンやスイカも候補に挙がったが、結局パイナップルを用いることに落ち着いたそう。半分に割って果実をくり抜き、それ自体を器にする。そこに果実とサワーを入れてカクテル調に商品化した。グラスに入ったサワーが添えられているのは、追いサワー感覚で継ぎ足して飲んでいくため。酒と一緒にパイナップルを味わう_、そんなドリンクである。
カクテル類でいうと、「♯ごろ×2果実サワー」も面白い。生果実サワーはよくあるが、ここのは果実がたっぷり入っている。グラスの側面からそれが見えるのも女子ウケの理由。ウォッカベースに苺やマンゴーなどを入れ、炭酸で割って提供している。ちなみに単品では苺、レモン、マンゴーがあるのだが、二種の果実を入れたダブルミックスサワーと三種のトリプルミックスサワーもある。流石に三種も入ると彩り豊かで、実に映え商品に思える。
とにかく三田駅前に現れた「鶏かわ屋」は、普通の焼鳥屋ではなく、メニューもユニークなら価格もリーズナブル。開店以来好調なようで学生からサラリーマン、年配の夫婦まで色んな層が訪れるという。ちょっぴりインスタ映えも意識しながら、売りの商品は「ぐるねじ黒皮串」と一本芯が通っているのもいい。
住 所 | 三田市駅前町9-2 |
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T E L | 079-563-5858 |
営業時間 | 17:00~翌1:00 |
休 み | 日曜日 |
メニュー | 名物ぐるねじ黒皮串 一本138円 |
廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。