フードジャーナリスト曽我和弘の三田“食”紀行

フードジャーナリスト曽我和弘氏が福助グループをめぐる食紀行。スタッフから素材や料理にかけるこだわり、お客様に対する思いなどを聞きだしながら、曽我氏の鋭い論評を交え「三田の食」を語っていただきます。

Vol.22:
三田駅前路地に灯りがともる「咲蔵」は、和スタイルの"おもしろ料理"が売り
福助グループにまた一つ、ユニークな店が加わった。JR・神鉄三田駅からすぐの所に位置する「咲蔵」は、店のコンセプトを"おもしろ料理"と謳った店である。素材は、三田ポークや三田和牛、丹波地鶏と三田周辺のものが中心で、その素材感をいかしつつも、料理人のちょっとした工夫が加えられて和スタイルの"おもしろ料理"になっている。1階はカウンターとテーブル席で計20人を収容。2階でも飲食できてと使いやすい。値段帯も手頃なのだろう、サラリーマン層が気軽に飲み食いの店として使っているようだ。今回は12月にオープンした「咲蔵」で私が食べて来た話を載せることにしよう。

三田ポークを使った料理の数々

DSCF4466三田駅前にまた一つ、面白い店がお目見得した。「大衆焼肉・ホルモンやまだ」を通り越し、路地を入った所にある「咲蔵」がそれ。路地裏にボ~ッと灯りがともり、"蒸"の字が見えるのだが、一応この店では、蒸し・焼きを中心とした"おもしろ料理"と謳っている。かつてこの場所には「さくら」という焼鳥屋が存在した。その店主が体調を崩して店を続けられなくなり、跡を引き継いでほしいと福助グループの福西文彦さんに相談して来たのである。福西さんは、彼の意志に応える形で福助グループの店の一つとして新店をオープンさせ、その名称を「咲蔵」にしたという。「何とか『さくら』の名を残そうと考えたのですが、新店は焼鳥屋ではなくなっているので新しいコンセプトの店だと知らせる意味もあって漢字を当てたんです。『咲蔵』と書きますが、読みは同じなので、以前ここに『さくら』があったと振り返ることもできますし…」とそのネーミングの由来を語ってくれた。

DSCF4475 「咲蔵」の売りは、店前の文字にもあるようにセイロ蒸し。カウンターから見える厨房にはセイロが渦高く積まれていることからもまずそれを注文すべきだと理解できる。期待のセイロ蒸し料理は、「三田ポークと野菜三種(並830円、大1580円)」や「丹波地鶏と野菜三種」「三田和牛と野菜三種」などなど。この付近で獲れる肉類と地元野菜などをうまく組み合わせてセイロで蒸して提供している。ちなみにここで素材として登場している三田ポークとは、三田市内の母子(もうし)地区で飼われている豚を使ったもの。福助グループのマネージャー・中谷世志樹さんによると、「この豚肉は、肉質が柔らかく、甘めでさっぱりしている」とのことであった。元来、日本の豚は脂の比率が高いとされ、それ故にしつこさを感じざるをえないのだが、中谷マネージャーの話では脂の比率が高いわりには胸焼けもせず、さっぱりした味になっているそうだ。母子は三田の街中に比べると標高が高く、朝晩の寒暖差が激しい。そんな場所で餌にこだわって飼っているからこそそんな肉質を生むのであろう。

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DSCF4480この三田ポークを使った料理では「蒸しシューマイ」(2個290円)がある。三田ポーク100%を用い、自店で作っている肉焼売で、酢と醤油を合わせたタレを食べるのだが、これも「咲蔵」のイチ押しメニューになっており、店長の中谷稔さんも「必ずコレを注文してほしい」と薦めるほど。追加で1個(145円)からもあるので人数分に合わせて注文するのもいいだろう。
豚肉素材で行くと、私が「これはなかなかのもの」と思ったのが「自家製ソーセージ」(一本290円)である。流石に自店で詰めて作っているだけに市販のそれとはかなり違う印象で、どちらかというと、武骨な感じがする。食べればその粗さが逆に素材感を伝えており、福西さんが「ぜひ売って行きたい」と意気込んでいるのがよくわかった。

三田和牛の他、野菜も地元産を

DSCF4484こちらは牛肉だが、「厚切り牛タンステーキ」(1880円)もなかなかの代物だった。舌(タン)は元と先っぽでは当然旨さが異なる。ここで使っているのは、ボリューミーさや旨みがあるといわれるタン元部分。それを低温調理を施し、もう一度炙って出している。分厚いと噛み切れないからあえて低温調理をしているようで、うまく切れ目も入れて出すのでそんな心配は無用。洋風ソースをかけて提供している。

DSCF4481「咲蔵」では、三田の名素材のみならず各所から「これは!」と認めた食材を引っ張って来てメニュー化しているようだ。その一つが河内鴨である。これは松原で産される、いわゆる合鴨のこと。津村さんが孵化から飼育、そして精肉と一貫して行っており、このような生産体制を取っているのは全国でも数少ないらしい。50日で出荷される一般的な合鴨と異なり、河内鴨は75日も飼育しており、その大きさは通常のの1.5倍にもなるそうだ。鴨肉は魚などと同様、鮮度が命なので朝挽きをその日のうちに食べるのがいいと生産者は語っている。なので出荷エリアも京阪神間に限っている。中谷店長が生産者とのパイプがあったので「咲蔵」でも使えるようにしたという。「河内鴨の塩焼」(1680円)がその代表的メニューなのでぜひとも注文してほしい。
実は同店は鰻にも注力しているとの話であった。これとて福助グループが結んだパイプで、いい素材が手に入るが故にメニュー化しているのだ。福助グループ・マネージャーの中谷世志樹さんによると、三田に鰻の仲買い人がいて、そこから直で引いているという。そういえばメニューに「うなぎ一夜干し」(1880円)なるものもあり、蒲焼きではなく、一夜干しかと思い何となくそれに惹かれてしまった。一夜干しでいえば、オススメできんきもあった。色んな素材があってそれを工夫したものが味わえる店と思ってもいいのではなかろうか。

DSCF4477 福助グループは、三田で野菜や米づくりを行っている。それが各店舗に運ばれて新鮮な状態で供される。「自家(福助ファーム)の野菜だけでまかなえないが…」と言いつつもセイロ蒸しなどで使われているのは、中心がそれになっているようだ。肉の件(くだり)ばかり書いていると、そこに注目されがちだが、野菜が旨い店としてとらえてもおかしくはない。福西さんが「これは珍しいでしょ」と言って出してくれたのがサラダの一種で「新鮮かぶらのアンチョビソース」(580円)であった。一般的に蕪は生食の素材としての認識は薄い。「新鮮なものは生で食せるのですが、ほとんどの人は知らないでしょうね」と福西さんは言う。生で出さない因は、管理が難しいことにあるそうで、放っておくとすぐにシナシナになってしまうのだ。このメニューは、生の蕪の上にアンチョビソースが載っている。箸よりむしろ手で掴んで食べるのがいいようで、口に入れると蕪の持つ甘みが舌に伝わって来る。

DSCF4467「咲蔵」は素材感を十分伝えつつ、シンプルに蒸しや焼きで調理する店と捉えたい。ただ、単にシンプルというわけではなく、随所に職人の技が入っている_、これを"おもしろ料理"と称しているのであろう。

<データ>

おもしろ料理 咲蔵

住 所 三田市駅前町9-14
T E L 079-555-6008
営業時間 18:00~翌2:00
休 み 日曜日
メニュー

自家製ソーセージ 一本290円
三田ポークと野菜三種 並830円 大1580円
丹波地鶏と野菜三種 並980円 大1880円
三田和牛と野菜三種 並1380円 大2580円
蒸しシューマイ 2個290円 追加1個145円
丹波地鶏もも塩焼 1180円
うなぎ一夜干し 1880円
新鮮かぶらのアンチョビソース 580円
厚切り牛タンステーキ 1880円

プロフィール

曽我和弘
(フードジャーナリスト・フードプランナー)

廣済堂出版、あまから手帖社、TBSブリタニカ社など出版畑を歩き、1999年に編集制作兼企画会社の㈲クリエイターズ・ファクトリーを設立。大ベストセラーになった100円本や朝日放送とタイアップした「おはよう朝日です。雑誌です」を出版し、ヒットメーカー的存在に。プロデュース面でもJR西日本フードサービスネットの駅プロデュースに参画し、その成功によって関西の駅ナカブームの火付け役と称されている。現在、月に13本の連載を抱え、食関連のコラムを多く執筆している。

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